1.「相続分のないことの証明書」には注意しましょう!

相続ワンポイントコラム

◆「相続分のないことの証明書」とは?

相続の手続きについて、他の相続人から「相続分のないことの証明書」という1枚の文書が送られてきて、手続きに必要だから、この書面に署名・押印してほしいと言われることがあります。急いでいるからと言われて、よく分からないけれど、署名・押印してしまったという話をよく聞くことがあります。

この「相続分のないことの証明書」とは、いったい何なんでしょうか?

■「相続分のないことの証明書」とは何なの?

「相続分のないことの証明書」とは、「自分は、被相続人から既に生前「特別受益」として財産の分与を受けているので、被相続人の死亡による相続については、今回相続する相続分はありません」ということを認める文書になります。

他にも「特別受益証明書」「相続分不存在証明書」などの呼び方がありますが、意味は同じで、自分は相続しないことを認める」書面になります。

「特別受益」とは、被相続人から生前に、教育資金結婚資金住宅購入資金などの「贈与」を受けることです。このような特別の贈与は、「遺産の前渡し」と見ることができます。これを無視して単純に遺産分割をすると、公平では無くなってしまいます。そこで、特別受益者生前に受けた贈与の額相続財産に加えたうえで、各相続人の相続分を決めることになります。

ある相続人の相続分が以前受けた特別受益の額以下の場合は、今回の相続では、相続する相続分は無いことになります。通常は、このような場合のときに、「相続分のないことの証明書」という文書を利用することになります。

■「相続分のないことの証明書」は何のために作成するの?

この「相続分がないことの証明書」が必要になるのは、主に不動産の相続登記(名義変更登記)の時です。

通常、不動産の相続登記(名義変更登記)をするためには、遺産分割協議書を添付する必要があります。相続人全員で遺産分割の協議をして遺産分割協議書をまとめなければならず、作成の手間と時間がかかってきます。

また、相続放棄する場合は、家庭裁判所相続放棄申述手続きをしなければなりません。

これに対して、「相続分がないことの証明書」は、簡単な書面ですので、すぐに作成でき便利です。

特別受益者が遠方に住んでいる場合などは、遺産分割協議書相続放棄申述受理証明書(又は受理通知書)を添付しなくても、この「相続分がないことの証明書」があれば、他の相続人だけで簡易に相続登記できるので、相続登記における便利な書類として利用されています。

■「相続分のないことの証明書」の注意点とは?

単に登記に必要だからなどと説明され、よく考えもせず安易に「相続分のないことの証明書」署名・押印してしまうと、後にトラブルになるケースも結構あります。

この場合は、実際には生前贈与などの特別受益が無かった時でも、自分の相続分放棄または贈与したとみなされることもあります。

また、この書面で相続分が実際無くなったとしても、「法律上の相続放棄」をしたことにはなりません。被相続人に借金などの債務があった場合は、当然にその債務も承継することになってしまいます。

従って、「相続分のないことの証明書」等の書面については、内容を検討することと、よく考えもせず安易に署名・押印してしてしまわないように、十分に注意することが必要です。

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