13.「不動産を遺産にする」なら元気なうちにこれだけはやっておくべき!その1 境界確認

相続ワンポイントコラム

◆ 13.「不動産を遺産にする」なら元気なうちにこれだけはやっておくべき!その1 境界確認

不動産については、他の現預金や株式などと違って、資産価値を大きく変動させる要素がたくさんあります。不動産を遺産として相続人に遺したいと考えている方は、「元気なうちにこれだけはやっておくべき」ことがあります。子孫に問題のある不動産を遺さないために、是非、確認・実施すべきことがあります。これをやっていない場合は、相続人に名義が変わってから、いろいろな問題が出てきて、相続人が苦労することになってしまいます。相続させる不動産について、下記のことを確認して、実施する必要があることは、元気なうちに速やかに実施することをお勧めします。

■隣地との境界石・境界標の確認をすること!

土地や戸建の場合は、その土地と隣地との境界が明確になっているかを確認します。通常隣地との境界には境界石や境界標が設置されていることが多いので、境界石や境界標があるかどうかを確認します。経年変化で土中に埋まっている場合もあります。また、すべての土地に境界票があるわけではありません。

無い場合は、費用はかかりますが、相続人のために境界標を設置することをお勧めします。境界票は、勝手に設置することができないので、次の境界確定測量図、隣接地主との境界確認書があれば、その内容で設置します。しかし、境界確定測量図、隣接地主との境界確認書無い場合は、境界確定測量をすることが必要となります。専門家である土地家屋調査士に依頼して作成することになります。

■境界確定測量図、隣接地主との境界確認書の確認をすること!

不動産を相続人に遺す場合は、相続人がその相続不動産を売却することも綱領しなければなりません。売却する場合は、最近では、買主から確定測量図、隣接地主との境界確認書、境界標の明示を求められる場合がほとんどです。これが無い場合は、通常の価格では売却できないことになります。価格を相当低額にしても売れないこともあります。そのため、確定測量図、隣接地主との境界確認書、境界標の明示は、売主の義務として定着してきております。

無い場合は、土地家屋調査士に依頼して確定測量図の作成、隣接地主との境界確認書の取得、境界標の設置を実施する必要があります。測量には時間がかかるため、相続税が課税される場合などは、自分が元気なうちに実施しておくようにします。自宅の場合は、隣地所有者とのお付き合いもあり、境界確定もスムーズに進むと思われます。時間を置くと、隣地でも相続が起こり、相続人が増え権利関係が複雑化してしまいます。

■境界・測量等についてもっと知っておこう!

測量が必要になるのは、土地を売却する場合建物を建築する場合日照制限のため真北を知る場合相続税での土地評価をする場合、土地を物納する場合、分筆登記・相続登記する場合、土地を交換する場合、地積更生登記する場合などがあります。以下、境界確定測量と境界について、みていくことにしましょう。

◆なぜ境界確定測量が必要なの?

境界確定測量が必要な理由は、「土地本来の資産価値を確定するため」です。

「測量」は、「目的」ではありません。あくまで目的を達成するための「手段」なのです。

測量で、土地の地積を確定させることは、所在、地目、地積、所有者、形状等を確定させることなのです。

「土地本来の資産価値を確定させる目的」は、「土地の商品化」を図るためです。

活かせる資産、利用価値がある資産なのかを判断するため、売却または物納をするため、遺産分割の際に土地を分割するため、正しく納税するため等の「土地の商品化」を図ることが「目的」です。

「土地本来の資産価値を確定するための条件」は、隣地との境界が確定していることで、一物一権主義の前提になっています。

借地ほ範囲が確定していること。現地に境界標が正しく入っていること。登記簿と実際の面積が一致していること。所有者と登記簿の登記名義人が一致していること。等が必要になっています。

特に、次の土地は、「土地本来の資産価値を確定するため」測量をお勧めします。

.隣接地境界借地の範囲不明な土地隣接地境界票が入っていない土地

2.正確で正しい測量図面が無い土地

3.登記簿の地積と実際の面積が大きく違う土地

◆相続対策としての測量の必要性とは?

相続対策としての測量は、「節税対策」「納税対策」「分割対策」3つの面があります。

1.節税対策とは?

節税対策は、正しく納税するための対策です。

土地を利用区分ごとに評価するには、現況測量が必要です。

土地及び土地の上に存する権利を正しく評価するには、境界確定測量が必要です。

私道負担面積を算出し私道部分の固定資産税を非課税とするには、境界確定測量が必要です。

2.納税対策とは?

納税対策は、相続税を払うための対策です。

現金納付の資金として土地を売却するには、境界確定測量が必要です。

延納(申告から10年以内)するには。境界確定測量が必要です。

3.分割対策とは?

分割対策は、遺産を分けるための対策です。

遺言で物件を特定するには、境界確定測量が必要です。

共有にしない現物分割の目的のため土地を分割するには、境界確定測量が必要です。

土地を売却して換価分割するためには、境界確定測量が必要です。

土地を売却して代償金を支払う代償分割するためには、境界確定測量が必要です。

◆境界とは?

ここで「境界」について、みていくことにしましょう。

境界には、「3つの境界」があります。

1.公法上の境界とは?

公法上の境界は、「筆界」と言われています。不動産登記法第123条には、「表題登記がある一筆の土地とこれに隣接する他の土地との間において、当該一筆の土地が登記された時にその境を構成するものとされた2以上の点(筆界点)及びこれらを結ぶ直線(筆界線)をいう。」と定められています。

筆界は、都道府県及び市町村との境界になります。

公法上の境界(筆界)は、私人が自由に変更できるものではなく筆界ができた時点(明治6年地租改正時点)で、客観的に固定して動かないものとされています。原始的筆界といいます。

分筆や合筆をしてできた筆界は、新しくできた筆界であって、もともとの筆界が動いてできたわけではないとされています。これを後発的筆界といいます。

筆界の変更、分筆、合筆、裁判所の確定判決3つの場合だけにしかできません。

2.私法上の境界とは?

私法上の境界は、「所有権界」と言われています。

私法上の境界は、所有権の範囲を示す私法上の境界です。私法上の境界には、借地権界、地上権界等もあります。土地の一部を時効により取得したとしても各土地の境界が移動するものではないとされています。

所有権界が、筆界と一致するとは限りません。

明治6年地租改正時点の地番の境である筆界は、所有権と一致していたはずですが、その後、売買、交換、分筆、合筆、時効取得等により、所有権の境と地番の境である筆界の差ができてしまったことが、原因とされています。

当事者間で取り交わす「境界確認書」は、所有権についての契約書であり、公法上の境界である筆界を確定するものではありません。

3.事実上の境界とは?

事実上の境界は、現実の物と土地との間の境界で、現況測量で作成されます。

現況測量は、建物を建築する場合、現況道路中心線から2mのセットバックラインを出す場合、土地の工高低差を出す場合、敷地の真北方向を知りたい場合などに行われます。

◆境界紛争を解決するには?

■なぜ境界でもめるのでしょうか?

「なぜ境界でもめるのか」、もめる理由は必ず相手がいるからです。

紛争の相手は、自分と同じ価値観や、同じ道徳心を持っておりませんので、事実はひとつでは無く、事実は人の数だけあることになります。境界線は、感情線とも言います。代表的なもめる理由は、次のとおりです。

土地価格の高騰、権利意識の高揚等があること

権利意識の高揚、高度成長期からの土地価格の高騰、土地活用の発展などの状況を背景に、資産価値のある土地を減らしたくない、あわよくば少しでも多く面積を増やしたいという欲望があるからだと言われています。

境界票が無いこと

境界線が見えないので、勝手なことを言ってもそれが不当なのか分からないことが大きな理由になっています。公法上の境界などどうでもいい、所有権の範囲が問題と思っている人が多くなっています。

私の土地は登記されているから大丈夫と思って何もしない人がいますが、登記簿には、地番、地積、地目などの記載はありますが、土地の境界は記載がありません

公図などの不正確な図面を信じていること

公図は公の図面だから正しいと思っている人が多いことが、理由のひとつとなっています。公図は、明治6年地租改正時点に、測量知識のあまりない一般人により測量された土地台帳付属図面です。一筆ごとの土地の図面をつなげて公図を作成したので、正しい、正確な図面ではありません。

また、隣接所有者との境界立会い・確認をしないで、勝手に現況測量図を作成し、それが境界だと信じている人も多くいます。この人は、測量士に依頼して作成した図面(現況測量図)だから正しいと思っていますが、現地と一致しない場合や境界の位置が正しいとは限らない場合も多数あります。

このように、自分にとって都合の良い図面で主張することが、紛争の理由になるのです。

面積にこだわること

固定資産税を課税されているのだから、国が面積を定めていると思っている人もいます。登記簿に記載されている面積(地積)は公的に保証されていません。地租改正当時税金を安くするため、土地面積を過少に申告したところも多かったと言われています。現在の公簿面積は、土地台帳の地積を書き写したものなので、正確ではありません。

勝手な思い込みがあること

自分の都合のいいように思い込んでいることが多いと思われます。

~かもしれない → ~だ → ~きっとそうだ → ~そうに違いない

という経路を経て、自分のものだと思っている土地が、相手に侵害されていると思い込んでいることが、もめる大きな理由となっています。

隣接者(借地人)等と不仲であること

このような場合は、相手に不信感があり、お隣のすることには全て協力しないと思ってしまいがちです。 境界が問題なのでは無く、境界には関係が無いことが原因になっていることが多くなっています。

特に、隣地所有者が兄弟姉妹親せきの場合は、譲り合いが無いのでもめることが多くなっています。

■境界紛争を解決する方法は?

境界紛争が起きた場合、境界の内容により、解決方法が異なります。

最初に、境界紛争は、「筆界」で起きているのか、「所有界」で起きているのかを区分して考えます。

「筆界」の場合は、「筆界特定制度」「筆界確定訴訟」があります。

「所有界」の場合は、「所有権確認訴訟」「裁判外境界紛争解決制度(ADR)」があります。

以下、それぞれについてみていくことにしましょう。

筆界特定制度とは?

筆界特定制度とは、筆界特定登記官が、土地の所有権登記名義人等の申請に基づき、外部専門家から任命される筆界調査官(土地家屋調査士、司法書士、弁護士等)による調査結果及び意見を踏まえ、1筆の土地と他の土地との間の筆界の現地における位置について判断を示す制度であり、行政レベルで土地の境界を適正かつ迅速に特定することを目的としています。期間は約10か月程度かかります。

一方又は双方が不服であっても、特定書が出され、対象となった土地の登記簿に筆界特定がされた旨が記録されます。不服があれば、筆界確定訴訟を提起することができます。

筆界確定訴訟とは?

筆界確定訴訟は、公法上の境界について、裁判所が決定することになります。裁判所は、当事者の主張に拘束されません。判決がでるまでは、約2年程度かかります。

筆界確定訴訟は、地番と地番の境についての争いであり、裁判外で筆界の合意をすること、和解はできません。必ず判決で、新しい筆界を創設することになります。

所有権確認訴訟とは?

所有権確認訴訟とは、原告の所有権の及ぶ範囲についての争いであり、話し合いによる解決が建前の訴訟です。和解もできます

裁判外境界紛争解決制度(ADR)とは?

裁判外境界紛争解決制度(ADR)とは、土地の境界に関する専門家集団「土地家屋調査士会」が、法律の専門家集団である「弁護士会」協働で運営している「境界紛争解決センター」が、一般の方の相談に応じて最良な方法問題解決できるよう支援する制度です。境界についての相談から紛争解決までの調停または仲裁を行っています。

その他、民事調停による解決もあります。調停証書は、判決と同じ効力を持ちます。

もちろん、話し合いによる解決もあります。この場合、合意内容を公正証書にしておくことをお勧めします。

◆境界紛争の予防のためには?

境界紛争を予防するには、次のようなことを実施することが必要となります。

隣接者(借地人)とは仲良くすること

日頃から円満な意思疎通を行い、信頼関係を築いておくことが必要となります。

思い込みとあいまいさを無くすようにすること

土地家屋調査士に依頼して境界確定測量を行うようにします。境界票は、隣地所有者と立ち会ってお互いに確認するようにします。現地に境界標が無い場合は、設置するようにします。境界標の写真を日付をいれて撮っておくようにします。境界確定測量図を作成し、境界確認書をお互い取り交わしておくようにします。登記簿面積と実測面積が違う場合は、地積更生登記の申請を行うようにします。

現地と測量図と登記簿を一致させることにより、安全・安心な土地になります。

境界票を管理すること

自分の土地を守る境界標は、自分で維持管理するようにします。そして、家族全員が境界標の意識を持つことが重要です。

◆まとめ

1.子孫に問題のある不動産を遺さないために、是非、確認・実施すべきことがあります。これをやっていない場合は、相続人に名義が変わってから、いろいろな問題が出てきて、相続人が苦労することになってしまいます。相続させる不動産について、下記のことを確認して、実施する必要があることは、元気なうちに速やかに実施することをお勧めします。

2.隣地との境界石・境界標の確認をすること!

3.境界確定測量図、隣接地主との境界確認書の確認をすること!

4.境界確定測量が必要な理由は、「土地本来の資産価値を確定するため」です。

5.「土地本来の資産価値を確定させる目的」は、「土地の商品化」を図るためです。

6.特に、次の土地は、「土地本来の資産価値を確定するため」測量をお勧めします。

(1)隣接地境界や借地の範囲不明な土地隣接地境界票が入っていない土地

(2)正確で正しい測量図面が無い土地

(3)登記簿の地積と実際の面積が大きく違う土地

7.境界紛争を予防するには、次のようなことを実施することが必要となります。

隣接者(借地人)とは仲良くすること

思い込みとあいまいさを無くすようにすること

土地家屋調査士に依頼して境界確定測量を行うこと、境界票は、隣地所有者と立ち会ってお互いに確認すること、現地に境界標が無い場合は、設置すること、境界確定測量図を作成し、境界確認書をお互い取り交わしておくこと、登記簿面積と実測面積が違う場合は、地積更生登記の申請を行うこと。

現地と測量図と登記簿を一致させることにより、安全・安心な土地になります。

境界票を管理すること

自分の土地を守る境界標は、自分で維持管理するようにします。そして、家族全員が境界標の意識を持つことが重要です。

タイトルとURLをコピーしました