16.「相続放棄」と「相続分の放棄」とは違いがあるの?

相続ワンポイントコラム

◆「相続放棄」と「相続分の放棄」とは違いがあるの?

「相続放棄」「相続分の放棄」とは、全く違います。具体的な例で検討してみましょう。

具体例1

ご主人Aさん配偶者Bさん子Cさん3人家族がいたとします。ご主人Aさんの両親は他界して、弟のDさんが遠方に住んでいますが、Aさん家族とはほとんど交際はありません。このような場合で、Aさんが亡くなったとすれば、法定相続人は、配偶者Bさん、子Cさんの2人だけとなります。子Cさんは、全財産を母であるBさんに渡そうと考えました。ネットで調べて「相続放棄」をすれば、自分の相続分が母であるBさんにいくと思いました。そこで、家庭裁判所へ相続放棄の手続きを申請しました。

【結果1】

子Cさんが相続放棄したため、子Cさん初めから相続人では無いことになり、法定相続人は、母であるBさん3/4とAさんの弟Dさん1/4になってしまいました。普段連絡もしたことのない弟Dさんが法定相続分1/4を手に入れることになってしまいました。子Cさんが目指していたのは、自分相続分がゼロで、母Bさん相続分が100%ということであり、それは「相続分の放棄(相続分の譲渡)」だったのです。それを間違って「相続放棄」をしてしまったことが問題だったのです。

具体例2

ご主人Aさん配偶者Bさん長男Cさん、長女Dさん4人家族がいたとします。このような場合で、会社を経営していたAさんが亡くなったとすれば、法定相続人は、母Bさん、長男Cさん、長女Dさん3人だけとなります。長女Dさんは、母Bさんと長男Cさん会社を引き継いでいくので、自分の相続分の財産を放棄しようと考えました。「相続分の放棄」をして、自分の相続分が母Bさんと長男Cさんにいくことにしました。Aさんの経営していた会社には、借金があったのですが、長女Dさんは自分は何ももらわなかったので、借金も関係ないと思っていました。

【結果2】

債権者は、長女Dさんはに対しても法定相続分の1/4相当の借金の返済を請求してきました。「相続放棄」をすれば、長女Dさん初めから相続人では無いことになり、債務も全く関係ないことになっていました。それを、「相続分の放棄」をしたため、実際の相続分はゼロでも、相続人の地位は残ったままであったため、債権者からの請求を受けることになってしまいました。

このように、「相続放棄」と「相続分の放棄」とは、全く違います。次に詳しくみていくことにしましょう。

■相続分の放棄(相続分の譲渡)があった場合!

「相続分の譲渡(相続分の放棄)」とは、各共同相続人が遺産全体の上に持っている相続持分または相続人の地位譲渡することをいいます。

共同相続人に譲渡した場合は、相続分を譲受した相続人の相続分が多くなるだけで、特に問題にはなりません。

しかし、第三者に相続分が譲渡された場合は、その譲受人遺産分割協議に参加することになります。 その譲受人の署名・実印押捺と印鑑登録証明書の添付が無ければ、有効な遺産分割協議書とはなりません。

また「相続分の譲渡」は、遺産分割の前にしなければなりません。既に遺産分割協議が成立した後では、もはや「相続分の譲渡」はできません。

「相続分の譲渡」があった場合は、その内容を正確に把握して遺産分割協議をすることが必要になってきます。

■相続放棄があった場合!

「相続放棄」とは、相続人が自己がために相続があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ「相続放棄」の手続きをすることにより、「最初から相続人でなかった」ものとみなされることをいいます。 その結果、預貯金や不動産などのプラスの財産のみならず、借金などのマイナスの財産承継しないことになります。

「遺産放棄」をした相続人は「最初から相続人でなかった」ものとみなされるので、遺産分割協議に参加し、署名押印する必要がありませんし、することもできません。

また、「相続放棄」すると、相続の順位が変更することがあります。

相続権は、第1順位である相続人のが全員相続放棄をすると、第2順位の相続人である直系尊属に移ります。さらにその直径尊属が全員相続放棄をすれば、第3順位の相続人である兄弟姉妹にまで、その権利義務が及びます。配偶者はいつでも相続権があります。

そのため、「相続放棄」する場合は、関係者にきちんと通知しておくことが重要です。

■「相続分の放棄」と「相続放棄」と誤解しないこと!

「自分は、相続人間の協議で相続を放棄した」と言う人がいますが、これは、法律の言う「相続放棄」ではありません。これは、単純承認した上での「相続分の放棄(相続分の譲渡)」です。この場合、プラスの相続財産を受け取れない上に、借金などの債務は法定相続分どおりに承継していることになり、債権者から請求を受けた場合、その相続人の固有の財産弁済するしかないことになります。この点は注意が必要です。

プラスの相続財産一切受け取らない相続人がいる場合は、債務がある場合は当然のこと、仮に債務が無いと思われる場合でも、念のため「相続放棄」をすることをお勧めします。なぜなら、遺産分割協議に参加することも「法定単純承認事由」になり、後日負債が発覚した場合「相続放棄」が非常に困難であるからです。

◆「相続分の放棄」と「相続放棄」と誤解しないことが重要です!

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