◆その1「遺言」を作成する!
相続トラブルを避けるためには、元気なうちに「遺言」を作成しておくことが重要になります。
「遺言」は、簡単なものなら、5分あれば作成することができます。例えば、子供がいない夫婦の場合、「すべての財産は妻○○(生年年月日)に相続させる。日付、署名、押印」で完成します。
簡単に作成できる「遺言」でなぜ相続トラブルを避けることができるのか?、「遺言」を作成するとどんなことができるのか?など以下解説いたします。
◆「遺言」って何なの?
→亡くなると同時に身分上あるいは財産上のことがらについて、法律上の効力を生じさせようとす る意思表示をいいます。
→遺言には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つの種類があります。
「自筆証書遺言」は、本人が自分で手書きし、日付、署名、押印したものです。
「公正証書遺言」は、遺言内容を公証人に口授し、それを公証人が筆記し、遺言者及び証人2名が署名・押印、公証人が署名・押印したものです。
「秘密証書遺言」は、遺言者が署名・押印した遺言書を封筒に入れ同じ印鑑で封印し、公証人と証人2名の前に提出、自己の遺言である旨・氏名・住所を申述、封筒に遺言者と証人2名が署名・押印後、公証人が署名・押印したものです。
※その他「遺言」に関する詳細は、コラム「知っておきたい法律の知識・17.「遺言」って何な の?」以下を参照して下さい。
◆「遺言」はどうして必要なの?
→次のようなことをするための「手段」として「遺言」はとても重要になってきています。
1.自分が築いてきた大切な財産や先祖から受け継いできた財産を、最も有効に、そして有意義に、次世代に引き継ぐ手段であるからです。
2.それぞれの家族の実態を考慮した実質的公平を図る手段であるからです。
3.相続人などへの自分の想いを伝えるための手段であるからです。
4.相続人以外の人へ遺贈するための手段であるからです。
5.紛争が予想される家族関係がある場合など、特に必要な準備としての手段であるからです。
6.遺産分割協議の困難性や長期化が予想される場合など、その弊害を回避する手段であるからです。
◆「遺言」をするとどんなことができるの?
1.「遺言」のとおりに遺産分割ができることになります!
→相続人全員で遺産分割の話し合いをしなくてもいいので、もめることは無くなります!
→「遺言」で相続人の法定相続分と異なった相続分を指定することができます。この相続分の指定は「遺言」によらなければなりません。また、「遺言」の効力発生の時から相続開始の時に遡って効力を生じ、各共同相続人の相続分が定まることになります。
→「例えば、自分の会社の株式は後継者である長男にすべて相続させる」など遺産分割方法の指定は「遺言」でのみできます。
→「遺言」で相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁止することもできます。その後、事情の変更によって遺産分割を禁止する必要がなくなった場合は、相続人の協議や家庭裁判所の審判による分割も可能とされています。
※「遺言」の内容は、「遺留分侵害額請求権」による制限を受けることになりますので、遺言作成においては、留意する必要があります。
「遺留分」とは、一定の相続人のために法律上確保されるべき 最低限の相続できる割合をいいます。
「遺留分を有する相続人」は、兄弟姉妹以外の相続人全部です。(配偶者、子、直径尊属)
「遺留分の割合」は、
①直径尊属のみが相続人の場合=法定相続分の1/3、
②その他の場合=法定相続分の1/2となります。
「遺留分額の算定」は以下の計算式により算定します。
【{被相続人が死亡時に有した財産の額}+(贈与された財産の額)-(相続債務)】× 遺留分率
民法改正で、遺留分減殺請求権が「遺留分侵害額請求権」に変更になり、「金銭債権化」しました。
「遺言」においても。「遺留分」は侵害できず、侵害した場合は、遺留分権利者は、相続人に対して「遺留分侵害額請求権」による金銭請求ができます。
詳細はコラム「知っておきたい法律の知識・18.相続人なのに遺産を全然もらえないの?(遺留分とは?)」を参照して下さい。
2.「遺言」によって相続人以外の人にも遺産を遺贈することができるようになります!
→「遺言」により遺産を無償で相続人または他人に与えることができるようになります。
→例えば、内縁の妻、LGBTのパートナーの方、相続人でない長男の嫁、孫、甥や姪などに遺産を与えることができます。
→相続人がいない「おひとりさま」の場合、「遺言」で残された財産を自分の望むところへ遺贈することができます。
3.「遺言」によって死後の面倒な相続手続きがスムーズに行えるようになります!
→「遺言」が作成されていない場合の死後の相続手続き(預金口座の解約、不動産の名義変更登記など)はとても煩雑で時間がかかります。相続手続きで大切な家族に大変な思い、嫌な思いをさせないためにも、きちんとした「遺言」を作成しておくことが必要になってきます。
→例えば、相続人のなかに未成年がいる場合、相続人のなかに音信不通の人がいる場合、相続人のなかに認知症の人がいる場合、相続人のなかに海外勤務者など遠方に住んでいる方がいる場合などは、「遺言」を作成しておかないと、相続手続きをするために別の手続きが必要になり煩雑化、長期化が避けられないことになります。
※相続手続き等にに関する詳細は、コラム「知っておきたい法律の知識・12.「相続手続き」・「死後事務手続き」とは何なの?」以下を参照して下さい。
4.その他「遺言」では、以下のようなことができるようになります。
→認知、未成年後見人及び後見監督人の指定、相続人の廃除及び廃除の取消し、特別受益の持ち戻しの免除、相続人相互の担保責任の指定、遺言執行者の指定、遺贈の減殺方法の指定、一般財団法人 の設立、信託の設定、祭祀承継者の指定、生命保険受取人の変更などができるようになります。
※尚、それぞれの詳細については、その都度別途に説明させていただきます。
◆特に「遺言」が必要な人とは?
以下のような人は、「遺言」を作成しておけなければ、相続トラブルにまきこまれるおそれが高く、また相続手続きで別な手続きが別途必要となるため煩雑さや長期化が避けられないことになります。ですから、特に「遺言」を作成しておくことをおすすめいたします。
1.遺産に不動産がある場合
→分割しにくいため、争いの元となりやすいためです。単純に共有にしてしまうと後で処分などでもめることになり、問題の先送りになってしまいますので注意が必要です。
(財産が自宅だけの場合、不動産評価をどうするか、借地権の場合など)
→「遺言」でどうするかを決めておかないと後日もめる原因になってきます。
2.子供がいない夫婦の場合
→妻にすべての財産を相続させたい場合は、「遺言」が必要となります!
→亡くなったご主人に親がいる場合は、「遺言」が無いと法定相続分は奥さんが2/3、親が1/3となり、親がいない場合は、亡くなった人に兄弟姉妹がいる場合は、「遺言」が無いと法定相続分は奥さんが 3/4、兄弟姉妹が1/4となってしまい、奥さんが全ての財産を取得することができなくなります。
3.法定相続人以外に財産を渡したい場合
→「遺言」だけが、法定相続人以外の人に財産を与えることができます!
4.法定相続人がいない場合
→「遺言」が無い場合は、残された財産は国庫に帰属することになります。
→財産を有効に役立てるために特定の人に遺贈するか、寄付する場合は、「遺言」が必要となります。
5.行方不明の人がいる場合
→家庭裁判所に「不在者の財産管理人」の選定を申請し、「不在者の財産管理人」が選任されてから、「不在者の財産管理人」を含めて遺産分割協議をすることが必要となります。「不在者の財産管理人」が関係することで遺産分割協議が完了するまで長期化が予想されることになります。
6.相続人が認知症の場合
→家庭裁判所に「成年後見人」の選定申し立てを行い、「成年後見人」を含めて遺産分割協議を行うことが必要になってきます。「成年後見人」が関係することで遺産分割協議が長期化することが予想されます。
7.先妻の子供と後妻がいる等、親族関係が複雑な場合
→財産が形成された経緯等に配慮したり、関係が疎遠の場合など遺産分割協議が順調に進みにくいことがあります。「遺言」があれば相続トラブルを避けることができるようになります。
8.会社を経営している場合や農業を営んでいる場合
→会社の事業や農業の事業の円滑な継続を進めるために遺言者の所有自社株式・事業資産の配分や農地の所有権などの配分などを考慮することが必要となってきます。
→「遺言」が無いと、原則法定相続が基本に遺産分割協議が行われることになってしまい、事業の円滑な承継が難しくなる場合もでてくることになります。
9.相続人に感情的な対立が強い場合
→「遺言」が無ければ、相続トラブルが避けられないことになります。
10.相続人の人数が多く、遺産分割協議に時間がかかりそうな場合
11.相続税の申告が必要な場合
→相続税は納税期限があり、納税までに遺産分割協議を完了させて申告納付する必要があるため、 「遺言」があった方が順調に進めやすいことになります。
◆「法的に有効な遺言」と「想いを伝える遺言」とは?
「遺言」には、「法的に有効な遺言」と「想いを伝える遺言」があります。
→「法的に有効な遺言」とは、法律で定められた方式に従って作成されたもので、財産の承継・処分方法や相続人の排除、遺言執行者の指定、認知などを行うものをいいます。
「遺言」には、厳格な方式があり、それが欠けていれば法的効力が無効になってしましますので、正確な知識が必要となります。不安があれば、専門家に相談することをお勧めいたします。
→「想いを伝える遺言」とは、「遺言」に含まれていても特に法的な効力を有しないものをいいます。「付言事項」といって、自分の想いを遺す内容となっています。葬式のこと、臓器提供のこと、家族へのメッセージなどがあります。
→相続は「平等」にはなりにくい理由があります。
分ける相手が兄弟姉妹など他人ではないこと、介護に関わったかどうか、その他の事情や状況により、相続人各人の想いや心理的、経済的な状況は異なっています。
人間は感情や思考に多面性を持っている繊細な生き物であり、同じ環境で育っても一人ひとり考え方も違うし、お金に対する価値観も違います。また、同じ人間でも置かれている経済状態によっても違っています。
ですから、「遺言」によって、各相続人の性格や いろいろな 環境、要素を考慮して、できるだけ 「公平」を目指すことも大事なことになります。
→そのため、「想いを伝える遺言」つまり「付言事項」をしっかり書いて遺言者の想いを伝えることが重要です。
何故遺産をこのように分けるようにしたのか、それにはこんな理由があるなど遺産分割に至った経緯、これまでの家族に対する感謝の気持ち、初めて家庭を持った喜び、長男が生まれた喜び、長女の小学校入学式のうれしさ、次男の高校入試合格の喜びなど、家族(相続人)に「メッセージ」を残すことが大事なのです。
大切な人を失って悲しみにくれている家族に「メッセージ」を残すことは、生きる勇気を残すことになるのです。
→付言事項は、ハートを残すことであり、これが無いと、財産の方にばかり目が向いてしまい、せっかくの「遺言」が「冷たい財産分けの報告書」に過ぎなくなってしまいます。
→「遺言」は「法的に有効な遺言」と「想いを伝える遺言」とが、バランスよく両輪になるようにすると、血がかよった家族に対する「贈り物」に変るのです!
→「遺言」は作成する意思能力が必要です。認知症になってしまいますと作成することができません。ですから、元気なうちに是非作成することをお勧めいたします!
→「遺言」の具体的な書き方や注意点については、コラム「知っておきたい法律の知識・17.「遺言」って何なの?」以下を参照して下さい。
◆まとめ
1.「遺言」により、相続トラブルでもめることを避けることができます!
2.「遺言」には、強い法的効力があります!
3.「特に「遺言」を必要とする人」はすぐに作成することをお勧めします!
4.「遺言」には作成方法に注意点がありますので、それに留意して作成しましょう!
5.「遺言」の「付言事項」は家族に対するメッセージなので必ず書きましょう!
6.「遺言」は認知症になってしまうと作成できません。元気なうちに是非作成することを
お勧めいたします!