◆その2「任意後見契約」を締結する!
1.「認知症」になってしまったらどうなるの?
厚生労働省の推計によると、認知症の人は2025年に約700万人になると予想され、高齢者の5人に1人にのぼるとされています。
もし皆さんが、今後「認知症」になって、判断能力が不十分になってしまい「意思能力」が無いと判断されたら、どうなるのでしょうか?
→「自分に不利な契約をしてしまい損害を受けることが出てきます!」
相手の言うがままに契約をしてしまい、高額な必要のないリフォーム工事を発注したり、不要な不動産を購入したりして、大きな損害を受けることことが出てきます。
→「自分の預金口座が凍結されてしまいます!」
そうなると自分の預金講座から下せなくなってしまいます。介護施設に入所するためのお金も自分の預金口座から出すことができなくなります。その預金口座からの他の支払いもストップしてしまいます。
これは、意思能力の無い人との取引は無効になる恐れがあり、銀行が資産を守るために取引を制限するためです。
→「契約を締結することができなくなります!」
日用品の購入など日常生活に関する行為を除いて、自分で契約を締結することができなくなります。例えば、介護施設に入所するための「介護保険契約」を締結することができなくなります。
また「身上監護」つまり介護施設の入所契約、病院の入院手続き等が自分ではすることができなくなります。「不動産の処分」も自分ではできなくなります。「遺言」も有効にできなくなります。相続人として「遺産分割協議」に参加することもできなくなり、遺産分割協議自体をすることができなくなるため他の相続人にも迷惑をかけることになってしまいます。
→このように、認知症や知的障害がい・精神障がいなどが原因で判断能力が不十分になっている人は、それが自分に不利益な契約であっても正しい判断がつけられず、契約をしてしまい大きな損害を受けることが出てきます。また、預金口座からお金引き出せないことや契約が有効にできず、とても困ったことになってしまします。
2.「成年後見制度」とは?
①「成年後見制度」とは?
→認知症等になって判断能力が不十分になって不利益を受ける人を保護し、支援するのが「成年後見制度」です。
→「成年後見制度」は、大きく分けると、「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つがあります。
また、「法定後見制度」は、「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれており、判断能力の程度など本人の事情に応じた制度を利用できるようになっております。
→「法定後見制度」においては、家庭裁判所によって選定された「成年後見人等(成年後見人、保佐人、補助人)」が、本人の利益を考えながら、本人を代理して契約などの法律行為をしたり、本人が自分でする法律行為に同意を与えたり、本人が同意を得ないでした不利益な法律行為を後から取り消したりすることによって、本人を保護・支援いたします。
②「法定後見制度」と「任意後見制度」とを比較すると!
→「法定後見制度」とは、既に判断能力が低下している人を対象に、家庭裁判所で「成年後見人」を選定し、本人の身上監護に関する法律行為や財産管理などについて本人を支援する制度です。
申立権者(配偶者、4親等以内の親族など)が、家庭裁判所に成年後見人等の申立をしますと、家庭裁判所は、本人の判断能力の程度に応じて成年後見人等の選任の審判を行います。成年後見人等は、あくまで家庭裁判所が選任するので、家族の希望の人がなれるわけではありません。
→「任意後見制度」とは、現在正常な判断能力がある人が、将来認知症などで判断能力が低下する場合に備えて、自分の信頼できる人を選んで、その任意後見受任者との間に「任意後見契約」を締結するものです。「任意後見人」に任せるべき法律行為は、本人の意向にそった代理権の範囲を当事者間で自由に決まることができます。任意後見は、本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所から「任意後見監督人」を選任されてはじめて、任意後見契約が効力を生じます。
「任意後見契約」は、必ず公証役場で公正証書で作成します。
③「法定後見制度」の種類とは?
→「法定後見制度」は、「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれており、判断能力の程度など本人の事情に応じた制度を利用できるようになっております。
→「後見」は、対象となる方が、判断能力が欠けているのが通常の状態である場合です。援助者として「成年後見人」を選任し、取消権と原則としてすべての法律行為の代理権があります。本人は、「被成年後見人」と呼ばれます。
→「保佐」は、対象となる方が、判断能力が著しく不十分である場合です。援助者として「保佐人」を選任し、同意権、取消権と借財や不動産など重要な財産の権利の得喪等「特定な法律行為」の代理権があります。本人は、「被保佐人」と呼ばれます。
→「補助」は、対象となる方が、判断能力が不十分である場合です。援助者として「補助人」を選任し、「必要な法律行為」を選択してその同意権、取消権、代理権があります。本人は、「被補助人」と呼ばれます。
成年後見制度につきましては、コラム22.「成年後見制度」って何なの?も参照して下さい。
④「成年後見人」についてもっと教えて!
→成年後見人はどんな仕事をするの?
(1)後見開始時に行う仕事
・最初に被成年後見人の財産状況を把握することから始まります。本人がどうような財産を、どれだけ持っているかを把握しないと、財産管理を行えないからです。財産を調査した内容は、家庭裁判所へ報告します。その後、必要に応じて、金融機関で被後見人名義の預金口座を開設します。
(2)日常的に行う仕事
・医療費や介護施設の利用料など、日常的に発生する費用の支払いを行います。財産のなかにアパートなどの収益不動産があれば、その維持管理も含まれます。
(3)特別な場合に行う仕事
・例えば、被成年後見人が誰かの相続人になり、本人に代わって遺産分割協議に参加する場合などがあります。このような職務を行う場合は、別途家庭裁判所の許可が必要にとなります。
(4)後見が終了する場合に行う仕事
・成年後見制度が終了するのは、基本的には被成年後見人の死亡の時です。本人が死亡すると成年後見制度は終了しますので、成年後見人は、財産を相続人へ引き継ぐことで任務完了となり ます。
→成年後見人等には、どのような人が選ばれるのでしょうか
・保護や支援が必要な内容に応じて、家庭裁判所が選任することになります。本人の親族以外にも、法律、福祉の専門家その他の第三者や、福祉関係の公益法人その他の法人などが選ばれる 場合もあります。
最近のデータでは、「配偶者、親、子、兄弟姉妹」が成年後見人等に選任されたものが、全体の約23%となっています。司法書士など親族以外の第三者が成年後見人等に選任されたものが、全体の約77%となっています。(最高裁事務総局成年後見関係事件の概況平成30年1月~12月)
・後見開始の申立をした人において、特定の人が成年後見人等に選ばれることを希望していた場合であっても、家庭裁判所が希望どおりの人を選任するとは限りません。希望しない人が成年 後見人等に選任されえた場合でも、その審判について不服申立てをすることはできませんので、 ご注意下さい。
→法定後見が開始された後で、制度の利用をやめることはできますか?
・成年後見制度は判断能力が不十分な本人の権利を保護するための制度ですので、本人の判断能力が回復したと認められない限り、制度の利用を途中でやめることはできません。
→成年後見人等の申立をする人がいない場合は、どうすればいいの?
・身寄りがないなどの理由で、申立をする人のいない認知症の方などの保護・支援を図るため、市町村長に法定後見の開始の審判の申立権が与えられています。
⑤「成年後見登記制度」とは?
→「成年後見登記制度」は、成年後見人等の権限や任意後見契約の内容などを登記官はコンピュータ・システムを利用して登記し、また、登記官が登記事項証明書(登記事項の証明書・登記され ていないことの証明書)を交付することによって登記情報を開示する制度です。
→どのような時に、登記事項証明書を利用することができますか?
・例えば、成年後見人等が、本人に代わって財産の売買・介護サービス提供契約などを締結する時に、取引相手に対し登記事項の証明書を提示することにより、その権限などを確認してもら うという利用方法があります。また、成年後見を受けていない人は、自己が登記されていない ことの証明書の交付を受けて、そのことを証明することに利用できます。
⑥「法定後見制度」のデメリットとは?
(1)法定後見はあくまで本人の権利保護が基本ですので、推定相続人のための資産活用や相続税対策などすることができなくなります。本人の財産保全がすべてに優先されることになります。
(2)成年後見人の候補者を申立時に希望することはできますが、選ぶのは家庭裁判所となってしまします。自分の信頼できる人を選任する任意後見とは異なります。
(3)専門家(弁護士、司法書士など)が成年後見人に選任される場合が最近は多くなってきており、その場合、本人が亡くなるまで報酬(月額2万円~6万円)を支払い続けることになります。 特別な業務が発生すればさらに必要になってきます。
(4)家族が成年後見人になった場合でも、成年後見人は定期的に家庭裁判所へ報告書を提出する義務が発生します。
3.「任意後見制度」とは?
①「任意後見制度」はなぜ必要なの?
→「任意後見制度」は、本人が元気なうちに、将来、判断能力が不十分になった場合に備えて、あらかじめ自らが選んだ代理人(任意後見人)に、自分の生活、療養看護や財産管理に関する事務について、代理権を与える契約(任意後見契約)を公証人の作成する公正証書で結んでおくという ものです。
→「任意後見制度」では、制度を利用するかどうか、任意後見人を誰にするか、どんなことを依頼するのか、すべて本人が決めることができるのです。
→本人の判断能力が低下した後に、任意後見人が、「任意後見契約」で決めた事務について、家庭 判所が選任する「任意後見監督人」の監督のもと本人を代理して契約などをすることによって、本人の 意思にしたがった適切な保護・支援をすることが可能になるのです。尚、任意後見監督人にも報酬が必要となってきます。管理財産(流動資産)が5000万円以下の場合は月額1万円~2万円、5000万円を超える場合は月額2.5万円から3万円となっています。
②「任意後見契約」にはどんなものがあるの?
→「移行型」とは、本人の判断能力が低下する前から受任者に財産管理を委託し、判断能力低下後に、任意後見契約としての契約を発効させる形態のものです。
「生前事務委任契約(見守り契約、財産管理契約)」→「任意後見契約」→「死後事務委任契約」となる契約形態が多くなっております。
→「即効型」とは、任意後見契約締結後、期間を置かずに任意後見監督人を選任してもらい、契約を発効させる形態のものです。
→「将来型」とは、本人に十分な判断能力があり元気なうちに任意後見契約を結んで置き、契約締結時には、何らの財産管理の委任をしない形態のものです。
→本人の置かれている状況や自らに考え方に合った形態を選んでいただければと思います。
③「任意後見契約手続き」の流れとは?
◆任意後見受任者を決める!
任意後見人になるためには資格は必要ありません。信頼できる人(家族、友人、弁護士・司法書士・行政書士などの専門家)を選びましょう。
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◆任意後見人にしてもらいたいことを決める!
どのような事務を委任するかは、当事者同士の話し合いで決めることになります。財産管理に関する法律行為と介護サービスなどの法律行為や事務などになります。また任意後見人の報酬も決めておくといいと思います。
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◆任意後見契約を公正証書で締結する!
公正証書の内容は東京法務局で登記されます。「成年後見登記制度」について参照して下さい。
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◆判断能力が低下したら「任意後見監督人の選任の申立」をする!
申立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者です。原則として、本人以外が申立てを行う場合には、本人の同意が必要です。
・手続きの流れは以下の通りです。
1.任意後見監督人の選任を家庭裁判所に申し立てる
2.任意後見監督人が選任される→任意後見受任者から任意後見人となる
3.任意後見契約の効力が発生。任意後見監督人による監督のもと、任意後見人による支援が開始される
任意後見監督人を通じて、間接的に家庭裁判所が任意後見人を監督することにより、本人の保護を図ることになります。
↓
◆任意後見人が契約で定められた仕事を行う!
④「任意後見契約」の解約はどうするの?
◆任意後見が開始される前
→本人または任意後見受任者はいつでも契約を解約できます。その場合は、公証人の認証を受けた解約通知を内容証明郵便で送付することになります。相手の同意は不要とされています。
◆任意後見が開始された後
→家庭裁判所の許可を受けなければ解約はできません。正当事由が必要となってきます。
⑤「任意後見契約」の終了はどうするの?
→本人または任意後見人が死亡、破産すると契約は終了します。また、任意後見人が認知症等により被後見人等になった時も、任意後見契約は終了します。
また、任意後見人に不正行為、著しい不行跡、その他任務に適しない事由がある時は、家庭裁判所は任意後見人を解任することができます。
4.まとめ
1.認知症になって、判断能力が不十分になってしまうと、預金口座が凍結されて預金が下せなくなってしまったり、売買契約などの法律行為ができなくなってしまします。
2.判断能力が不十分になって不利益を受ける人を保護・支援するために「成年後見制度」があります。
3.「成年後見制度」には、「法定後見制度」と「任意後見制度」があります。
4.成年後見人が本人に代わって法律行為を行って、本人の権利を保護・支援することになります。
5.法定後見制度では、成年後見人は家庭裁判所が選任することになります。
6.任意後見制度では、本人が元気なうちに任意後見人を自分の意思で選定することができます。家庭裁判所に「任意後見監督人」を選任してもらって、任意後見が開始します。
7. 任意後見契約は公正証書で締結することが必要となりますが、 将来、安心して老後を迎えるために自己責任で備える制度であり、老い支度ともいわれています。是非、元気なうちにご検討されることをお勧めいたします。