【元気なうちにできること】その3 「家族信託」を利用する!

元気なうちにできること

◆その3 「家族信託」を利用する!

1.「家族信託」って何なの?

そもそも「信託」って何なの?

「信託」という言葉を聞いて、皆さんはどんなイメージを思い浮かべますか?

「信託銀行」「投資信託」などをイメージする方も多いと思います。

「信託」とは、簡単に言いますと、「信じる人」「財産」託すこと」です。

「財産を託す人(委託者)」が「信頼できる人(受託者)」に自分の財産を託し、「利益を受ける

(受益者)」のために、あらかじめ定めた目的に従って管理・処分してもらう「財産管理の一つ

の方法」です。

「信託」の起源は中世ヨーロッパの十字軍と言われています。十字軍兵士として戦った貴族階級は、自分の領地などの全財産を置いて戦場に出かけました。その当時、妻や子供には、財産を管理することはできませんでした。

そこで、自分の信頼する友人に、自分に代わって領地からの税金徴収や財産を貸したり売ったりする権限を与え、得られた利益は自分の妻や子供に渡すようにしていました。

日本では、大正12年(1922年)1月に施行された「旧信託法」により、「信託」は、信託業免許を 持った信託銀行や信託会社が、財産の所有者から財産を託され、管理や承継を行い報酬を得る「商事信託」が主流でした。

制定以来80余年にわたり実質的な改正が行われずにいましたが、社会・経 済情勢の変化などによって多様化するニーズが高まり、平成19年(2007年)9月「改正信託法」が施行されました。

この改正信託法によって、信託銀行などが営利目的で行う「商事信託」と、「商事信託」以外の営利を目的しない信託つまり「民事信託」が行えるようになりました。

営利目的でなければ、信託業免許が無くても法人や私人間においても、「財産を委託される人(受託者)」になることができるようになりました。

民事信託のなかでも、特に信頼できる「家族」に財産を託す信託を「家族信託」と言います 。

自分の財産を、特定の目的(例えば「自分が認知症になった場合介護等に必要な資金の支払・管理等」)のために、信頼できる家族(例えば「長男」)に託し、その処分・管理を任せる制度のことです。

「家族信託」のしくみとは?

「家族信託」を一言で言えば!

「私」の財産を、「あなた」に託します! だから、「あの人」のことを頼みます!

遺言などでも設定可能ですが、通常は契約(「信託契約」)で設定します。

自分の持っている不動産やお金を、信頼できる人に託します。託された人は、その財産をあらかじめ決めた目的に従って管理します。目的によっては、不動産の売却なども可能です。そして、託した財産からの利益を自分が望む人に渡すようにしてもらいます。

「家族信託」の登場人物は?

1.「私」—-財産を託す人で「委託者」といいます。元々の財産の所有者です。

2.「あなた」—-財産を託された人で「受託者」といいます。託された財産を管理(目的により売却等も含む)して委託者の大切な「あの人」を守ります。

3.「あの人」—-受任者が管理している財産から利益を受ける人です。「受益者」といいます。

「私」の財産を、「あなた」に託します。だから、「あの人」のことを頼みます。

私が、認知症になっても、亡くなっても、財産を管理して「あの人」を守って下さい!

つまり、家族信託は、大切な人を守る愛情のメッセージなのです!

信託は、「委託者」「受託者」「受益者」という3つの役割によって構成されています。

「委託者」「受益者」は同じ人でも構いません。また、「委託者」「受託者」を同じ人にすることは可能ですが、法律上、委託者と受託者が同じ状態が1年間続くと信託は終了する規定になっています。

「信託」すると「所有権」の形が変わるの?

「信託」すると、「民法のルール」から「信託法のルール」に変ります。

「所有権」は、「民法のルール」では、権利(利益を受ける権利)」名義(管理・処分する権利)」一体となっており、分離することができません

しかし、「信託法のルール」では、権利(利益を受ける権利)」名義(管理・処分する権利)」分けることができるようになります。

「権利(利益を受ける権利)」のことを「受益権」といい、信託財産から生じる利益を受ける人のことを「受益者」といいます。

名義(管理・処分する権利)」を託された人を「受託者」といい、登記簿上の所有者(形式的な所有者)になり、契約等の法律行為ができます。しかし、「託された財産」からの利益・売却代金等は「受益権」を持っている「受益者」に渡すことになります。

だから、「委託者」が、認知症になっても、亡くなっても、「受託者」は自己の名義にされた「託された財産」を管理・処分することができ、その財産から生じた利益・売却代金等を「受益者」に渡すことができるようになります。

このようにして、「委託者」の想いは、「受託者」の管理行為を通じて、大切な「受益者」に届くようになるのです!

家族信託については、コラム24.「家族信託」って何なの?も参照にして下さい。

2.「家族信託」と他の制度と比べて優劣はあるの?

「成年後見制度」との比較では?

成年後見制度(法定後見)の財産管理上の欠点とは?

(1)後見人ができるのは、「本人の財産の保全」を最優先とする財産管理であること。

従って、自宅売却の場合は、本人が望んでいたとしても、家庭裁判所の許可が必要で時間もかかり、本人の財産保全上、売却ができないこともあります。

(2)監督する家庭裁判所にとっては、「形式的に本人のためになるか」が重要であること。

従って、本人が望んでいたとしても、「収益不動産の組み換え等の相続対策相続税対策」または「預金は子供や孫に必要な都度贈与すること」は、相続予定者等のためであって本人のためでないことになってすることができません。

(3)後見人を選定するのは、家庭裁判所であり、「第三者が選任」される場合があること。

財産が多い場合は、不正を防止するため家族が成年後見人になることは少なく、約7割が行政書士や弁護士などの専門家が選任されることになります。従って、後見人と家族との関係がぎくしゃくしたり、本人の意向がこうだったと言っても聞いてもらうことができないこともあります。後見人は本人の「財産を守ること」が役目であり、相続人のために「財産を運用したり、組み替えたりすること」が役目でありません。

家族信託なら、「本人の希望」に即した「財産管理」を「託したい人」に、が可能に!

家族信託では、預金・不動産など信託財産の名義は、受託者名義になっているので、受託者である家族が売却等の判断を行い、売却の手続きを当事者として進めることができます。

(1)信託では、自宅売却の場合、本人が時期を見てタイミングのいい時にすぐ売却してほしい意向であれば、受託者が時期を見て売却できます。

(2)信託では、本人の意向を汲んだ「相続対策や相続税対策」受託者の判断で自由にすることができるようになります。また、預金から子供や孫への生活費の負担などもできるようになります。

(3)信託では、受託者には、家族のうち信頼できる人が選任されているので安心です。

法定後見制度と比べて、家族信託の方が、本人の意向に沿った財産管理が可能となります!

「遺言」との比較では?

遺言でできることには「限界」があります!

(1)例えば、「自分が死んだら子供いない長男Aへ自宅の土地建物を相続させる。そして長男Aが亡くなったら自宅の土地建物を甥Bに相続させる。」という希望があった場合、これを遺言に書いた場合、このような遺言は法律上は「無効」です。

なぜなら、自分が長男Aへ相続させるのは自由ですが、自宅の土地建物を取得した長男Aが誰に相続させるかは、長男A自身がきめることになるからです。長男A以降の2次相続を遺言できめることはできません。

(2)信託なら、この問題を解決できます。信託財産から生じる利益を受ける「受益権」を信託契約で、次々と承継することができます。つまり、委託者である本人が、受益者を最初は長男Aとして指定して、その後の受益者として甥Bを指定することができのです。

遺言では限界があることを、信託では、財産承継の道筋を最後まで組み立てることができます!

「贈与」との比較では?

贈与をすると、その後は自分の権限が無くなってしまうので「限界」があります!

贈与は、その人に贈与してしまえば、その財産に対する自分の管理・処分権も及ばなくなってしまいます。しかし、次のような場合は、支障が出てくることがあります。

(1)自社株を後継者である長男に、財産価値が低い今のうちに贈与したいが、議決権などの決定権はまだ自分のところにおいておきたい場合

(2)贈与を受けた長男が浪費家で、一度に財産を渡したくない場合

(3)贈与を受けた長男が未成年で、一度に財産を渡したくない場合など

信託を活用すると、贈与した後も、管理・処分に自分の意向を反映できます!

(1)自社株を後継者である長男に信託し、その際に「委託者が元気なうちは、委託者の指示に従って議決権を行使すること」という条件をつけることができます。この受託者へ指示を出す権利のことを「指図権」といいます。

(2)長男が浪費家である場合は、長男を受益者として、信頼できる家族を受託者として財産を託し、受益者である長男に、少しずつお金を渡してもうらことができるようになります。

(3)長男が未成年である場合も同様に、受託者から少しずつお金を渡してもうらことができるようになります。

信託にすると「相続」はおきないの?

◆一般的に財産は、「民法のルール」が適用されます。したがって、財産を所有している人が亡くなると「相続」が発生します。

◆財産の一部や全部を信託契約により、「信託財産」にすると「信託法のルール」が適用されることになり、「民法のルール」が適用される「相続」の対象では無くなります。

◆信託財産は、「信託法のルール」に則り、既に受託者の名義となり「独立した状態」となっているので、委託者がお亡くなりになった場合でも「相続」は起きません。

また、「受託者の固有財産」と「信託財産」は、法的に明確に分離・区分されるため、たとえ委託者や受託者が破産したとしても、委託者や受託者の債権者に「信託財産」が差し押さえられることは、基本的にありません。

だから、「信託」の制度を使って、「認知症対策」、「相続対策」、「事業承継対策」などが可能になってくるのです。

3.「家族信託」の開始、終了はどうなるの?

「家族信託」を始める方法は、「契約信託」「遺言信託」「自己信託」の3つがあります。

「契約信託」は、委託者と受託者が「信託契約書」を締結することで、信託を開始する方法です。

◆信託契約には、必要な事項がきちんと記載されていなければなりませんから、通常公証人が作成する「公正証書」で作成することになります。

◆信託契約の内容は、「信託する目的」、「信託する財産」、「信託財産の管理・運営方法」、「当事者(委託者、受託者、受益者)」、「信託の終了」、「信託監督人受益者代理人を置くのか」、「信託の変更方法」、「信託終了後財産を引き継ぐ人は誰か」などを定めていきます。

「遺言信託」は、遺言の中に「信託」する旨を記載し、遺言の効果が発生した時に信託をスタートさせるものです。

◆遺言は、公正証書でなくても成立しますが、「遺言信託」は、公正証書で作成することを強くお勧めいたします。信託財産に不動産が含まれている場合は、不動産名義を受託者に変更し、信託の登記をしなければなりません。

◆信託銀行や信託会社の『遺言信託』という商品とは違うので注意が必要です。『遺言信託』という商品は、遺言作成サービス+遺言公正証書保管+遺言執行を信託銀行や信託会社が行う商品であり、「遺言」についてのサービスです。「家族信託」のような「信託契約」をするものではありません。

「自己信託」は、文字通り「委託者=受託者」という形の信託です。

◆自己信託は、「信託宣言」という行為でスタートします。自分一人ですから、契約もできませんし、遺言を書くわけでもありません。だから宣言を行い、この信託宣言は公正証書で行います。適当な受託者が見つからないので、ひとまず自己信託する場合や不動産を受益権化して贈与する場合などに利用されます。

◆法律上、委託者と受託者が同じ状態が1年間続くと信託は終了してしまいます。「1年ルール」と呼ばれています。また、「委託者=受託者」という関係なので、自分が認知症になった場合は財産が動かせなくなってしまうので注意が必要です。

「家族信託」が終了する事由は、以下のとおりです。

◆終了する主な事由は、「信託の当事者(委託者及び受託者、受託者及び受益者)の合意解約」、「信託の目的の達成または不達成」、「受託者が欠けた場合で新受託者が就任しない状態が1年間継続したとき」、「信託財産の破産手続きの開始決定」、「受託者が費用の償還等を信託財産から受けられないことにより終了させた場合」です。

◆上記事由等により信託が終了しても、清算が終了するまで存続するものとみなされ、終了後の受託者には、清算受託者としての職務と責任があります。

信託終了後「財産」は「信託法のルール」が適用される世界から、「民法のルール」が適用される世界に戻ってきます。

4.「家族信託」のメリット、デメリットは?

「家族信託」のメリットとは?

相続財産から分離できること!

認知症発生後、死亡後においても継続できること!

所有権の権利を「権利(利益を受ける権利=受益権)」と「名義(管理・処分する権利)」に分けることができること!

名義(管理・処分する権利)」を一本化できること!

以上のようなメリット、特徴から、

(1)後見制度に代わる柔軟な財産管理ができるようになります。

(2)親の体調に左右されず、財産の管理・処分、相続対策が可能になります。

(3)遺言ではできない2次相続以降の資産承継者の指定が可能になります。

(4)不動産の共有問題を防ぐことができるようになります。

(5)障がいがある子供等の支援が将来にわたってできるようになります。

(6)倒産隔離機能があります。

「家族信託」のデメリットとは?

受託者を誰にするかでもめることがあること!

「家族信託」は、委託者と受託者のみで信託契約を締結することができるので、4人家族の場合でも委託者父と受託所長男だけで契約自体はできてしまいます。「家族信託」は生前の財産管理もすることができるので、他の家族に内緒で進めると問題になってしまいます。「家族信託」を利用する場合は、家族みんなで理解した上で進めることが重要です。もちろん家族仲が悪い場合には、「家族信託」は向いていませんので、別な方法を検討すべきです。

家族信託でできないこともあること!

成年後見制度「身上監護」や、遺言による一身専属的な「身分行為(例えば認知等)」は、家族信託ではできません。それぞれ、成年後見制度遺言によることになりますので、家族信託との併用などを考えることになります。

「家族信託」について、契約の範囲が及ぶのはあくまで「信託契約」で信託した「信託財産」の範囲に過ぎず、その他の財産や施設、医療機関との契約(身上監護など)についての代理権等を有しておりません。

そのため、信託契約以外の財産について、「相続対策」をとるのであれば、「任意後見」「遺言」「生命保険」などの対策を別途とる必要があります。

節税効果が少ないこと!

家族信託は、相続税対策にはなりません。受託者には税金がかけられない一方で、受益者には税金がかかります。受益者が第三者であれば贈与税g、受益権が相続によって相続人に移転すれば相続税がかかります。基本的に家族信託では、大きな節税効果をあげることはできません。

信託事務(帳簿作成、財産耄碌作成、信託計算書等の提出)があること!

実務に精通した専門家がまだ少ないこと!

家族信託は、まだあまり一般的に普及している方法ではありません。従って事例や判例もまだ少ない状況です。家族信託の実務に詳しい専門家も少ないという現状があります。

家族信託を検討する際は、実務経験が豊かな専門家に相談することが必要です。当事務所は、家族信託の実務の専門家と連携して皆さんのご相談に対応しております。

「家族信託」のリスク対策はどうするの?

受託者が信託財産を勝手に私的に流用する場合を防ぐには?

「信託監督人」を指定することを信託契約に記載しておくか、家庭裁判所に「信託監督人」の選任請求することができます。「信託監督人」は、受託者が信託契約に基づいて財産管理をきちんと適切に行っているかチェックすることになります。

受託者認知症や死亡した場合に対応するには?

「代わりの受託者」を選任することを、信託契約に記載しておけば「新しい受託者」を選任できます。ただし、代わりの受託者が1年間見つからない場合は信託は終了します。

受益者意思能力が無くなった場合は?

受益者が認知症などで意思能力が無くなった場合は、「受益者代理人」を指定することを信託契約に記載しておくことになります。「受益者代理人」が選任されれば、受益者の代理人として受益者の権利を守るために業務を遂行することになります。

受益者死亡してしまった場合は?

信託契約の条項により、信託契約は継続することになり、2次受益者に受益権が引き継がれることになります。

信託内容変更したい場合は?

信託契約の条項で、「信託内容の変更」のしかたについて取り決めをしておくことになります。そして、その契約条項に基づいて「信託内容の変更」をすることになります。

信託契約を解約したい場合は?

信託契約の条項で、「信託契約の解約」のしかたについて取り決めをしておくことになります。そして、その契約条項に基づいて「信託契約の解約」をすることになります。

5.「家族信託」活用の具体的な事例はどんなものがあるの?

「家族信託」は、「認知症対策」「数次相続対策(受益者連続)」「事業承継対策」「共有対策」などの問題を解決する方法として活用するケースが多くなっています。具体的に「家族信託」どのように活用するのか、次にみていきましょう。

高齢の親の実家を管理する場合

【事例1】

「父が亡くなり、母Aが一人実家に住んでいます。子供が二人(長男Bと長女C)がいます。長男Bは結婚して母Aから遠い場所に住んでいます。長女Cは嫁に行って現在母A近くに住んでいおり、様子をよく見ています。母Aは足腰が弱ってきており、施設への入所を検討しています。最近母の物忘れが増えており、このままでは自宅や預金の管理が心配です。できれば時期をみて自宅を売却して施設の入所費用などに充てたいと考えています。」というケースの場合

何もしなかった場合

母Aが認知症になってしまったら、預金は凍結されてしまい、もちろん自宅の管理や売却もできません。子供(長男Bと長女C)では何もできなくなってしまいます。

成年後見制度を利用した場合

家庭裁判所へ成年後見人の選任をしてもらい、その成年後見人が母の財産管理・身上監護をすることになります。資産がある場合は、親族は成年後見人にはなれず、司法書士・弁護士等の専門家が成年後見人になる可能性が高くなります。その場合、母Aにとって意味のある合理的な理由のある支出しか認められません。自宅の売却も裁判所の許可がいるので簡単には認められないことになります。

家族信託を利用した場合

【信託スキーム】

委託者:母A 受託者:長女C 受益者;母A 信託財産;自宅と預金 終了事項: 母Aの死亡 帰属権利者: 母Aの法定相続人(長男Bと長女C)

家族信託を利用することで、 母Aが徐々に意志判断能力が衰えてきても、長女Cが預金、自宅の管理や修繕、高齢者施設への入所後の処分など信託契約で定められた目的に従って、長女Cの判断で母Aの財産を自由に処分、活用することができます。母Aが死亡した時に信託は終了し、残った財産は長男Bと長女Cが相続することができます。

高齢の親のアパートを管理する場合

【事例2】

「自宅とアパートを複数所有している父Aがいます。子供が二人(長男Bと長女C)がいます。長男Bは結婚して父Aと自宅で同居しています。長女Cは嫁に行って現在自宅と近い場所に住んでいます。父Aが自分でアパートの管理をしていますが、高齢のせいか体調や具合が悪くなってきました。物忘れが最近出てきており、アパートの入居者や退出者の契約・解約手続きなどがちゃんとできるか心配です。父Aは、アパート甲とアパート乙、金融資産を所有しています。父Aは、同居する長男Bに自宅とアパート甲を、長女Cにはアパート乙を相続させたいと考えています。」というケースの場合

何もしなかった場合

父Aが認知症になってしまった場合には、預金は凍結されてしまい、アパートの賃貸管理、売却処分、大規模修繕、建替え等の相続対策もできなくなっていまします。子供(長男Bと長女C)では何もできなくなってしまいます。また、父Aが「遺言」を作っていない場合は、相続税申告期限内(相続開始後10か月以内)に 長男Bと長女Cが誰が何を相続するか遺産分割協議で決めなければなりません。

成年後見制度を利用した場合

家庭裁判所へ成年後見人の選任をしてもらい、その成年後見人が父Aの財産管理・身上監護をすることになります。父Aは資産があるので、親族は成年後見人にはなれず、司法書士・弁護士等の専門家が成年後見人になる可能性が高くなります。その場合、父Aにとって意味のある合理的な理由のある支出しか認められません。家族にとってメリットのある相続対策、例えば、アパートの建替え、大規模修繕、売却等の財産の整理・処分行為をすることができなきなります。また、「遺言」を作っていない場合は、相続税申告期限内(相続開始後10か月以内)に 長男Bと長女Cが誰が何を相続するか遺産分割協議でまとめ、相続税の納税資金も現金で用意しなければなりません。

家族信託を利用した場合

【信託スキーム1】

委託者:父A 受託者:長男C 受益者;父A 信託財産;自宅、相続予定のアパート甲、金銭 終了事項: 父Aの死亡 帰属権利者: 長男B

【信託スキーム2】

委託者:父A 受託者:長女C 受益者;父A 信託財産;アパート乙、金銭 終了事項: 父Aの死亡 帰属権利者: 長女C

父Aが元気なうちは、アパート甲とアパート乙について、長男Bと長女Cと一緒に共同でアパート管理をして、父Aが認知症になってっしまった場合は、受託者である長男Bと長女Cがそれぞれ財産管理処分権を持っていることから、入退去時の賃貸借契約手続き、大規模修繕、建替え、売却などを行うことが可能です。信託契約で信託終了後の帰属権利者を定めておくことで、別途遺言や遺産分割協議をしなくても、信託契約で定めたとおり財産を円満に相続させることができます。

「障がいのある子」の生活費を管理する場合

【事例3】

「父Aと亡くなった母Bには、子供が2人います。長男C、二男Dです。 父Aと長男Cは自宅に同居しており、長男Cは独身です。二男Dは結婚して子供もいて、自の近所に住んでいます。長男Cには知的障がいがあり、お金の管理が一人ではできない状態です。父Aは、最近物忘れが多くなり、認知症を心配しています。父Aは、アパートを所有しており、万一に備えて、長男Cにアパートやお金を相続させて、経済的に困らないように「遺言」を書こうと考えていますが、長男Cはアパートやお金を管理することは難しいと思っています。二男Dに頼むにしてもどうすればいいのかわかりません。何か良い方法はないか悩んでいます。」というケースの場合

何もしなかった場合

父Aが認知症になってっしまった場合は、預金は凍結されてしまい、アパートの賃貸管理、売却処分、大規模修繕、建替え等の相続対策もできなくなっていまします。

また、父Aが亡くなった場合、遺言が無ければ、遺産分割協議をすることになります。この場合、長男Cの知的障がいの程度によっては、遺産分割協議の内容を理解できません。

遺言があった場合は、遺産分割協議は不要になります。しかし、長男Cがアパートやお金を相続しても、自分では財産を管理できないことになってしまいます。

成年後見制度を利用した場合

父Aが認知症になってっしまった場合は、家庭裁判所へ成年後見人の選任をしてもらい、その成年後見人が父Aの財産管理・身上監護をすることになります。

また、長男Cに対しても家庭裁判所へ成年後見人の選任をしてもらい、その成年後見人が長男Cの財産管理・身上監護をすることになります。父Aが亡くなった場合、遺産分割協議には、長男Cの代わりに成年後見人が参加して協議をすることになります。遺言がある場合は、遺産分割協議は不要になります。資産があるので、親族は成年後見人にはなれず、司法書士・弁護士等の専門家が成年後見人になる可能性が高くなります。その場合、長男Cにとって意味のある合理的な理由のある支出しか認められません。長男Cがアパートやお金を相続しても、アパート管理については大規模修繕、建替え、売却などを行うことは、成年後見人はできません。

家族信託を利用した場合

【信託スキーム1】

委託者:父A 受託者:二男D 受益者;父A 第二受益者;長男C及び二男D 信託財産;自宅、アパート、金銭 終了事項: 父A及び長男Cの死亡 帰属権利者: 二男D

【信託スキーム2】

委託者:父A 受託者:二男D 受益者;父A 第二受益者;長男C 信託財産;金銭 終了事項: 父A及び長男Cの死亡 帰属権利者: 二男D

現在、父Aと長男Cは自宅に同居しており、将来、父Aが施設に入所する可能性があり、長男Cの生活費の面倒は、 二男Dがみていくことになるので、父Aの財産を二男Dが受託者として管理するスキームにします。父Aが他界後は、託されてた財産を長男Cのために管理を継続し、長男C亡き後は、二男Dに財産が帰属するという内容の家族信託にします。「信託スキーム1」は自宅とアパートを信託財産としており、第二受益者は長男Cと二男Dであるため、父A他界後はアパートの収益物件の家賃収入を長男Cと二男Dで分けることを目的としています。「信託スキーム1」は父Aと長男Cの生活費として金銭を信託財産として信託し、、父A他界後は二男Dが信託金融資産を使って長男Cの生活費などの管理をすることを目的にしています。家族信託を利用することで、父Aの意思判断能力が衰えても、二男Dがアパートの管理や修繕、高齢者施設の費用の支払いなど信託契約に定めた目的に従い、二男Dの判断で財産を自由に処分、管理することができます。また、二男Dひとりで、長男Cの日常生活管理まで行うことが負担になってきた時は、成年後見制度を使い外部の専門家等を活用することで、信託財産は家族信託で受託者である二男Dが、それ以外の日常生活の小口現金や身上監護などは成年後見人が行うことで、二男Dの負担を軽減し柔軟な財産管理ができます。そして、父Aと長男Cが他界した後は、二男Dがすべての信託財産を残余財産として取得します。信託契約に定めることで、遺言や遺産分割協議をしなくてもいい形の相続ができるようになります。

自社株式を渡したい場合(事業承継をする場合)

【事例4】

「父Aは創業者で株式会社の社長です。家族は亡くなった母Bと長男Cと二男Dがいます。長男Cはその会社で取締役になっています。二男Dは公務員をしています。父Aが認知症になって判断能力が無くなると議決権行使ができず、会社の経営がストップしてしまいます。長男Cに会社をまかせようと考えていますが、まだまだ現段階では経営を任せることは不安です。当面は父Aが一定範囲の判断ができるようにして、長男Cを経営者として育成したいと考えtいます。また株価が高いので株式を譲渡できません。また株式を分割すると経営上問題になるので、相続時に長男Cと二男Dにどのように分割するか悩んでいます。」というケースの場合

何もしなかった場合

父Aが認知症になってしまった場合には、議決権が講師できず会社経営が困難になっていまいます。また遺言が無ければ、遺産分割協議により長男Cと二男Dが相続財産をどのように分けるか決めなければなりません。自社株式を半分にしてしまえば、長男Cと二男Dで経営判断が違った場合、経営上問題になってしまいます。

成年後見制度を利用した場合

家庭裁判所へ成年後見人の選任をしてもらい、その成年後見人が父Aの財産管理・身上監護をすることになります。父Aは資産があるので、親族は成年後見人にはなれず、司法書士・弁護士等の専門家が成年後見人になる可能性が高くなります。その場合、父Aにとって意味のある合理的な理由のある支出しか認められませし、そもそも会社の経営は、成年後見人にはできないことになります。

家族信託を利用した場合

【信託スキーム】

委託者:父A 受託者:長男C 受益者;父A 指図権者: 父A 第二受益者;長男C及び二男D 信託財産;自社株式 終了事項: 受託者及び受託者の合意 帰属権利者: 信託終了時の最終の受益者

家族信託を行うことで、自社株式の名義は、受託者長男Cになり、議決権の行使は原則後継者である 受託者長男Cが行うことになります。信託契約の定めにより指図権を設定することで、重要な判断については、指図権者が受託権者に対して指図することができます。当初は、指図権者父Aの指図に従って受託者長男Cが経営を行いながら育成をして、成長し任せられる段階になった時に、受託者 長男Cが単独の判断で経営を行うことことができます。仮に父Aが認知症になってしまって指図権を行使できなくなったとしても、受託者長男Cが単独で経営できるように定めておけば問題はありません。

父Aが他界した後は、受益権は長男C及び二男Dに移るので、自社株式からの配当などは、長男C及び二男Dが受け取ることができます。そしてタイミングを見計らって、長男C又は会社が、二男Dの受益権を買い取ることで信託を終了させ、所有権として後継者である長男Cが自社株式の取得を目指すことができます。

子がいない夫婦の財産を承継する場合

【事例5】

「主人Aは、妻Bと自宅兼賃貸マンションに住んでいます。賃貸マンションは、主人Aが賃貸管理をしています。近い将来大規模修繕も考えています。夫婦のは子供がいません。主人Aには、主人Aの兄Cとその子供D(甥)と主人Aの妹Eがいますが、兄Cは先日亡くなりました。甥Dは可愛がってきましたが、妹Eとは付き合っていません。主人Aは、長男だったため先祖代々の土地を引き継ぎそこに自宅兼賃貸マンションを建築して住んでいます。もし主人Aが亡くなったら、相続財産は妻Bに全部相続するつもりです。しかし妻Bには兄弟が2名おり、妻Bが亡くなったら財産は妻Bの兄弟2名に相続されることになります。主人Aとしては、妻Bに全部相続させて、妻Bが亡くなった後は、財産は甥Dに相続させて先祖代々の土地を守りたいと考えています。」というケースの場合

何もしなかった場合

何もしなかった場合で、主人Aが認知症になってしまったら、預金が凍結され、賃貸マンション管理もできなくなり、近い将来する予定だった大規模修繕もできなくなります。妻Bは賃貸管理は全くできません。また、主人Aが亡くなった場合は、相続人は妻B、兄Cの子供(甥D)、主人Aの妹Eとなります。法定相続分は妻Bが3/4、兄Cの子供D(甥)が1/8、主人Aの妹Eが1/8となり、遺産分割協議で決めることになります。

成年後見制度を利用した場合

主人Aが認知症になった場合は、家庭裁判所へ成年後見人の選任をしてもらい、その成年後見人が主人Aの財産管理・身上監護をすることになります。主人Aは資産があるので、親族は成年後見人にはなれず、司法書士・弁護士等の専門家が成年後見人になる可能性が高くなります。その場合、主人Aにとって意味のある合理的な理由のある支出しか認められませんので、柔軟な財産管理ができません。価値を増加させる賃貸マンションの大規模修繕などは、することができなくなります。

遺言を作成した場合

主人Aが、遺言を作成して、「妻Bに全部相続させる」とした場合は、主人Aの兄弟姉妹には、遺留分が無いので、妻Bが財産を全部相続することになります。しかし、妻Bに財産が全部渡ったとしても、妻Bが亡くなった後のことまで、遺言で決めることはできません。従って妻Bが亡くなったら財産は妻Bの兄弟2名に相続されることになってしまいます。妻Bに遺言で「甥Dに全部相続させる」と書かした場合でも、遺言はいつでも撤回できるため確実ではありません。また遺言には、生前の財産管理機能が無いため、主人Aの認知症対策にはならないので、任意後見、家族信託などを活用することが必要になります。

家族信託を利用した場合

【信託スキーム】

委託者:主人A 受託者:甥D 受益者;主人A 第二受益者:妻B 信託財産;自宅、賃貸マンション、金銭 終了事項:主人A及び妻Bの死亡 帰属権利者:甥D

主人Aが亡き後は、妻Bが、 妻B亡き後は、甥Dが財産を取得できるように家族信託を設計します。

甥Dが賃貸マンションの管理を行い、賃料等は主人Aが取得し、主人A亡き後は、妻Bが賃料等を取得します。賃貸マンションの価値を高めるための大規模修繕も、甥Dの自由な判断で実施することができます。そして、妻B亡き後は、信託契約によって甥Dが財産を取得できるようになり、妻Bの兄弟に財産が渡ることはありません。また家族信託では、主人Aや妻Bの身上監護はできないので、甥Dに過度の負担をかけないため、信託財産以外の預金(小口現金)の管理や身上監護は成年後見制度を利用して、信託財産管理と分けて運用することもできます。信託契約では、契約時点の財産を特定するため全財産を信託できないので、遺言で信託財産以外の財産の相続先を決めておくことも必要になってきます。

相続前に共有問題を解決する場合

【事例6】

「母A、長女B、長男Cの3人家族で、母Aの財産は亡くなった父から引き継いだ自宅兼アパート以外はありません。アパートの管理は母Aがおこなっています。長女Bは、離婚後娘を連れて実家に戻り母Aと同居して、母Aの介護もしています。長男Cは、結婚して妻と息子がおり、遠方に住んでいます。長女Bとその娘は、自宅兼アパートに住まわせたいと思っていますが、相続は長男Cにも平等に分けたいと考えています。母Aが亡くなったら、自宅兼アパートを平等に分けたいが共有にはしたくないと考えています。」というケースの場合

何もしなかった場合

母Aが認知症になってしまった場合は、預金が凍結され、アパートの管理や売却、大規模修繕もできなくなります。母Aが亡くなり、生前の希望のとおりにすると、自宅兼アパートは長女Bと長男Cで1/2ずつの持分で共有になってしまいます。共有になってしまうと、修繕や売却に共有者全員の同意が必要になり、反対者がいると進めることができなくなります。また、権利者のひとりに意思能力が喪失すると、その財産の管理・運用・処分などができなくなるほか、相続が発生すると権利関係が細分化し、まとまりがつかなくなるおそれがあります。

遺言を作成した場合

遺言で、特定相続人に自宅兼アパートを相続させることもできますが、他の相続人から遺留分侵害額請求されることになります。仮に、長女Bに自宅兼アパートを相続させ他場合は、長男Cに対して遺留分相当額の代償金を支払わなければなりません。また、遺言には、生前の財産管理を指定することができません。

成年後見制度を利用した場合

母Aが認知症になった場合は、家庭裁判所へ成年後見人の選任をしてもらい、その成年後見人が主人Aの財産管理・身上監護をすることになります。母Aは資産があるので、親族は成年後見人にはなれず、司法書士・弁護士等の専門家が成年後見人になる可能性が高くなります。その場合、母Aにとって意味のある合理的な理由のある支出しか認められませんので、柔軟な財産管理ができません。価値を増加させるアパートの大規模修繕などは、することができなくなります。また、成年後見制度を利用しただけでは、遺産分割対策にはなりません。

家族信託を利用した場合

【信託スキーム】

委託者:母A 受託者:長女B 受益者:母A 第二受益者:長女B及び長男C 信託財産:自宅兼アパート、金銭 終了事項:母Aの死亡及び自宅兼アパートの売却時 帰属権利者:信託終了時の最終の受益者

委託者母Aが、受託者を長女B、受益者を母Aとする信託契約を締結し、母Aが亡くなったら、長女Bとその娘は自宅兼アパートに住めるようにして、長女B及び長男Cを第二受託者として、均等割合で受益権を取得させるものとします。母Aが認知症になったり、または亡くなった場合でも、受託者である長女Bが、単独で必要に応じ自分の判断で、自宅兼アパートの修繕、売却も行うことができます。そして、受益権を長女Bと長男Cとが、均等に1/2ずつ取得すれば、平等に相続したことと同じになります。その結果、賃料収入や売却代金の半分ずつを受け取ることができます。信託契約が終了した後、受益権を譲渡することも考慮することが必要となりますので、生命保険金を利用した代書金などの方法なども検討に値します。

6.まとめ

1.「信託」とは、、「信じる人」に「財産」を「託すこと」です。

「財産を託す人委託者」が「信頼できる人受託者」に自分の財産を託し、「利益を受ける

受益者」のために、あらかじめ定めた目的に従って管理・処分してもらう「財産管理の一つの方法」です。

特に信頼できる「家族」に財産を託す信託を「家族信託」と言います。

自分の財産を、特定の目的(例えば「自分が認知症になった場合介護等に必要な資金の支払・管理等」)のために、信頼できる家族(例えば「長男」)に託し、その処分・管理を任せる制度のことです。

2.「信託」すると、「民法のルール」から「信託法のルール」に変ります。

「所有権」は、「民法のルール」では、「権利(利益を受ける権利)」「名義(管理・処分する権利)」一体となっており、分離することができません

しかし、「信託法のルール」では、「権利(利益を受ける権利)」「名義(管理・処分する権利)」分けることができるようになります。

「権利(利益を受ける権利)」のことを「受益権」といい、信託財産から生じる利益を受ける人のことを「受益者」といいます。

「名義(管理・処分する権利)」を託された人を「受託者」といい、登記簿上の所有者(形式的な所有者)になり、契約等の法律行為ができます。しかし、「託された財産」からの利益・売却代金等は「受益権」を持っている「受益者」に渡すことになります。

だから、「委託者」が、認知症になっても、亡くなっても、「受託者」は自己の名義にされた「託された財産」を管理・処分することができ、その財産から生じた利益・売却代金等を「受益者」に渡すことができるようになります。

だから、「家族信託」の制度を使って、「認知症対策」、「相続対策」、「事業承継対策」などが可能になってくるのです。

3.「成年後見制度」と比べて、「家族信託」の方が、本人の意向に沿った財産管理が可能となります!

4.遺言では限界があることを、信託では、財産承継の道筋を最後まで組み立てることができます!

5.「家族信託」を活用すると、贈与した後も、管理・処分に自分の意向を反映できます!

6.「家族信託」でできないこともあること!

「家族信託」について、契約の範囲が及ぶのはあくまで「信託契約」で信託した「信託財産」の範囲だけしかできず、「身上監護」などその他の財産や施設、医療機関との契約についての代理権等を有しておりません。

そのため、信託契約以外の財産について、「相続対策」をとるのであれば、「任意後見」「遺言」「生命保険」などの対策を別途とる必要があります。

7.「家族信託」は、認知症や共有者問題等を解決する有効な「財産管理対策」です!

「遺言」では生前の財産管理ができません。「成年後見制度」では、死後の財産管理がで

きません。「家族信託」はすべての「財産管理」ができます!「生命保険」を組み合わせ

ることにより、より効果が高い「円満相続」を実現できます!

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