◆遺産分割協議でもめやすいケースとは?
遺産分割協議は、もめずにうまくまとまることがある反面、もめることもあります。特にもめやすい遺産分割協議は、次のような場合です。
①親が亡くなり「子供だけが相続人」の場合!
2次相続で、残された親がなくなり、相続人が子供だけになった場合は、兄弟姉妹同士で話し合うことになります。親という重石が無くなり止めてくれる人がいないので、勝手に主張してくることが多くなります。過去の不公平だったことを持ち出したり、介護をした人としない人との温度差などにより、話しがまとまらなくなることが多くなっています。
②相続財産が「実家不動産だけ」の場合!
相続財産が預貯金だけなら、きちんと分けることができるので、遺産分割協議がもめることはあまりありません。
しかし、不動産だけの場合は分けることができないので、もめることが多くなってきます。売却してその売却代金を分けることもできますが、時間と手間がかかり、売り急ぐと価格が下げないとならず、譲渡所得税などの税金がかかる場合もあります。
その不動産が実家で相続人の誰かがそこに住んでいる場合は、売りたくても売れないことになってしまします。自宅を相続する代わりに代償金を支払うことができればいいのですが、現金が無いことが多く、もめることになってしまします。
このような場合、生命保険金を利用して代償金を用意する方法もありますが、詳細はコラム【「元気なうちにできること」その5「生命保険を利用する!」】を参照して下さい。
③相続人に「半血兄弟姉妹がいる」場合!
被相続人の前婚の時の子供がいる場合や認知した子供がいる場合等、両親の一方だけの子供である半血兄弟姉妹と両親が一緒の全血兄弟姉妹とがいたとしても、それぞれの兄弟姉妹の法定相続分は同じです。(ただし、相続人が被相続人の兄弟姉妹の場合、半血兄弟姉妹の法定相続分は、全血兄弟姉妹の1/2となります。)
しかし、会ったこともない兄弟姉妹であったり、なかには恨みを持っている兄弟姉妹もいたりして、コミュニケーションを取ることも難しい場合もあります。
相続人の一人でも遺産分割協議に参加しないと言い出したりすれば、遺産分割ができ無いことになってしまうのでよく話し合うことが重要になってきます。
④「寄与分」を主張する相続人がいる場合!
「寄与分」とは、被相続人の財産の維持又は増加に寄与した相続人がある場合は、その人に対して、寄与に応じた法定又は指定相続分を超える額の財産を取得させる制度のことを言います。
「寄与分」があれば、その額を相続財産から控除し、残額を遺産分割協議の対象とします。そして各 相続人の相続分を決めてから、「寄与分」を有する相続人には「寄与分」を加えることになります。
遺産分割協議で、親の介護をした相続人から「寄与分」を主張することが多く、「寄与分」がスムーズに決まることは決して多くはありません。
また、「寄与分」の権利者は相続人に限られており、相続人以外の者は「寄与分」を主張できないことになっていました。
民法改正で、「特別寄与者」が設けられ、被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族が、相続人に対して特別寄与料の支払請求ができることになりました。
遺産分割協議書を作成する場合は、このことも考慮する必要が出てきましたので注意しましょう。
⑤「特別受益」を受けた相続人がいる場合!
「特別受益」とは、生前に被相続人から財産をもらっていた等、被相続人から特別に利益受けることをいいます。
このように「特別受益」を受けた相続人がいる場合には、遺産分割の際、トラブルになりすいことになります。
そこで公平を図るため、その相続人の特別受益分を相続開始時の財産に加えたものを相続財産とみなして計算した相続分の額から、その者の特別受益分を控除して、その残額をその者の相続分とする「特別受益の持ち戻し」という制度があります。
被相続人がこの「特別受益の持ち戻し」を望んでいない意思表示をした場合、「持ち戻しの免除」が認められます。
遺産分割協議書を作成する際は、「特別受益」についての注意が必要です。
◆遺産分割協議でもめたらどうなるの?
遺産分割協議で何度も話し合っても遺産分割の方法が合意できないときや、遺産分割協議の場に出席を拒む相続人がいて協議ができないときは、家庭裁判所で次のような手続きをとりことになります。
①家庭裁判所の「調停」による遺産分割を行う!
調停は、相続人の一人または数人が、他の相続人を相手として申し立てて、審判官一人と民間から選ばれた2人以上の調停委員の立ち合いのもと、当事者の主張を聞きながら、審判官と調停委員が妥協点を探りながら「調停案」を作成します。
この「調停案」に相続人全員が合意すれば、「調停」は成立します。
成立すれば確定判決と同様の強制力が付与される「調停調書」を作成することになります。
しかし、相続人全員の合意が得られなければ、「調停」は不成立になります。
②家庭裁判所の「審判」による遺産分割を行う!
調停でも遺産分割がまとまらない場合は、「審判」による遺産分割を行います。
これは、審判官が、財産の種類や性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態、生活状況その他の一切の事情を考慮したうえで分割方法を決め、「審判」することになります。
ただし、審判手続きには重大な制限があります。それは、審判手続きは、民法に定める「法定相続分」に従わなければならないということです。
この点は審判手続きを進めるうえで注意が必要となります。
◆遺産分割協議がまとまらない場合のデメリットとは?
特に相続税を課税される方は、以下のような税法上の軽減措置の特例を受けるためには、遺産分割協議書がなければなりません。
遺産分割協議がまとまらない場合は、税額が軽減されないデメリットがあります。
①申告期限までに遺産分割が完了していないと、相続税の配偶者の「税額軽減措置」が受けれない!
配偶者であれば、1億6000万円もしくは法定相続分のどちらか高い方まで相続税が無税になる特例があります。
しかし、申告期限(原則として被相続人の死後10か月以内)までに遺産分割が完了していないとこの特例が使えなくなってしまいます。
②申告期限までに遺産分割が完了していないと、「小規模宅地等の特例」が受けれない!
小規模宅地等の特例とは、簡単に言うと、被相続人が住んでいた土地について、相続税評価額を80%減額し評価額を通常の評価額の20%として、相続税の計算をするという特例のことです。
土地評価が8割引きになるのですから大きな特例です。この特例を受けるにはいろいろな条件があるのですが、その条件の一つに、申告期限までに遺産分割を完了していて、遺産分割協議書を申告書に添付できななければなりません。
申告期限までに遺産分割が完了していないと、小規模宅地等の特例が受けれないことになりますので、注意が必要です。
◆まとめ
1.遺産分割協議でもめやすいケースとは?
①親が亡くなり「子供だけが相続人」の場合!
②相続財産が「実家不動産だけ」の場合!
③相続人に「半血兄弟姉妹がいる」場合!
④「寄与分」を主張する相続人がいる場合!
⑤「特別受益」を受けた相続人がいる場合!
2.遺産分割協議でもめたらどうなるの?
①家庭裁判所の「調停」による遺産分割を行う!
調停は、相続人の一人または数人が、他の相続人を相手として申し立てて、審判官一人と民間から選ばれた2人以上の調停委員の立ち合いのもと、当事者の主張を聞きながら、審判官と調停委員が妥協点を探りながら「調停案」を作成します。この「調停案」に相続人全員が合意すれば、「調停」は成立します。
②家庭裁判所の「審判」による遺産分割を行う!
審判官が、財産の種類や性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態、生活状況その他の一切の事情を考慮したうえで分割方法を決め、「審判」することになります。審判手続きは、民法に定める「法定相続分」に従って行われます。