◆遺言をつくる前に「やっておくべき7つの準備」って何なの?
いざ遺言を作成しようと思っても、「基本的な7つの準備」について確認しておかなければ、「不完全な遺言」もしくは「無効な遺言」になってしまいかねません。
最初に、これらの「基本的な7つの準備」について、確認することから始めましょう。
◆確認すべき「基本的な7つの準備」とは?
遺言書を作成する前に、やっておくべき「基本的な7つの準備」とは、以下のとおりです。
■相続財産を調査すること
■相続人を確定すること
■遺言の内容を決定すること
■付言事項で記載するメッセージを決定しておくこと
■遺言執行者を決めること
■自筆証書遺言、公正証書遺言にするか遺言の種類を決定しておくこと
■遺留分を考慮すること
以上の「基本的な7つの準備」をしてから、遺言の作成に取り掛かりましょう。
◆「基本的な7つの準備」の具体的なやり方はどうするの?
「基本的な7つの準備」の具体的なやり方を順次みていくことにしましょう。
■相続財産を調査すること
「相続の対象になる財産」については「プラスの財産」「マイナスの財産」「相続の対象にならない財産」に分かれます。
◆「プラスの財産」
1.現金、預貯金
2.有価証券(株式、国債、投資信託など)
3.自動車、貴金属、家財道具
4.土地および建物の所有権
5.借地権、賃借権、抵当権、占有権
6.著作権、特許権、商標権
7.貸付金、売掛金
8.損害賠償請求権など
9.生命保険金(死亡保険金の受取人が自分の名義になっているものに限る)
◆「マイナスの財産」
1.借金、未決済のクレジットカード債務
2.住宅ローン
3.未納の税金
4.連帯債務
5.保証債務
6.損害賠償の債務
7.未納の医療費、介護費用など
相続財産の調査をする場合、プラスの財産ばかりに注目しがちですが、相続人に迷惑をかけないためにも、マイナスの財産、特に「連帯保証債務」「保証債務」もきちんと書き出しておくことが必要です。
◆「相続の対象にならない財産」
1.墓地、墓石、位牌、仏壇など
2.受取人指定のある生命保険金
受取人が特定の人に指定されている場合には、受取人の固有の権利になり、死亡保険金は相続財産には含まれません。受取人が自分の名義になっているものは、相続財産になりますのできちんと書き出しておくことが必要です。
3.一身専属的な権利
一身専属的な権利とは、その個人だけが持つ資格、権利のことで、代理権、使用借権、被雇用者の地位、親権、生活保護受給権、扶養請求権、医師・弁護士などの資格をいいます。
何を相続させるか明らかにするために、遺言に記載する相続財産の対象になる財産をよく調査して確認するようにしましょう。
◆相続人を確定すること
相続があった時に、誰が相続人になるかは民法で決められています。この民法で定める相続人のことを、「法定相続人」といいます。
配偶者は常に相続人ですが、子などの血族相続人には相続人になる順位が決められています。
◆第1順位:子(直系卑属)
被相続人に子がいれば第1順位で相続人となります。また、養子であっても実子と同じく「子」として相続人になります。
また、子が死亡していた場合は、孫が子に代わって相続します。(代襲相続)
◆第2順位:直径尊属(父母または祖父母)
子がいないとき、または子全員が相続放棄した場合、被相続人の父母が相続人になります。
父母がいない場合は、祖父母が相続人になります。
◆第3順位:兄弟姉妹
子も直径尊属もいない場合、または子も直径尊属全員が相続方した場合は、被相続人の兄弟姉妹が相続人になります。
その兄弟姉妹が相続開始時に亡くなっていた場合は、代襲相続により、その子である甥や姪が相続人になります。
◆配偶者は、常に相続人になります。
◆推定相続人の排除をすることもできます。
排除とは、推定相続人が自分に対して、「虐待、重大な侮辱、著しい非行など」を行った場合、相続人からはずすことです。家庭裁判所が、被相続人の請求に基づいて審判を下すことによって、相続権を失わせる制度です。
遺言によって推定相続人を廃除することもできます。この場合、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならないことになっています。
相続人を正確に確認した上で、遺言書を作成することにしましょう。
■遺言の内容を決定すること
「遺言」で相続人の法定相続分と異なった相続分を指定することができます。
「例えば、自分の会社の株式は後継者である長男にすべて相続させる」など遺産分割方法の指定は 「遺言」でのみできます。
「遺言」により遺産を無償で相続人または他人に与えることができるようになります。 例えば、内縁の妻、LGBTのパートナーの方、相続人でない長男の嫁、孫、甥や姪などに遺産を与 えることができます。
相続人がいない「おひとりさま」の場合、「遺言」で残された財産を自分の望むところへ遺贈する ことができます。
「遺言」が作成されていない場合の死後の相続手続き(預金口座の解約、不動産の名義変更登記な ど)はとても煩雑で時間がかかります。
例えば、相続人のなかに未成年がいる場合、相続人のなかに音信不通の人がいる場合、相続人のな
かに認知症の人がいる場合、相続人のなかに海外勤務者など遠方に住んでいる方がいる場合などは、「遺言」を作成しておかないと、相続手続きをするために別の手続きが必要になり煩雑化、長期化が避けられないことになります。
その他、認知、未成年後見人及び後見監督人の指定、相続人の廃除及び廃除の取消し、特別受益の持ち戻しの免除、相続人相互の担保責任の指定、遺言執行者の指定、遺贈の減殺方法の指定、一般財団法人の設立、信託の設定、祭祀承継者の指定、生命保険受取人の変更などができるようになります。
以下のような人は、「遺言」を作成しておけなければ、相続トラブルにまきこまれるおそれが高く、また相続手続きで別な手続きが別途必要となるため煩雑さや長期化が避けられないことになります。
1.遺産に不動産がある場合
2.子供がいない夫婦の場合
3.法定相続人以外に財産を渡したい場合
4.法定相続人がいない場合
5.行方不明の人がいる場合
6.相続人が認知症の場合
7.先妻の子供と後妻がいる等、親族関係が複雑な場合
8.会社を経営している場合や農業を営んでいる場合
9.相続人に感情的な対立が強い場合
10.相続人の人数が多く、遺産分割協議に時間がかかりそうな場合
11.相続税の申告が必要な場合
「特に「遺言」を必要とする人」はすぐに作成することをお勧めします!
■付言事項で記載するメッセージを決定しておくこと
相続は「平等」にはなりにくい理由があります。
分ける相手が兄弟姉妹など他人ではないこと、介護に関わったかどうか、その他の事情や状況によ り、相続人各人の想いや心理的、経済的な状況は異なっています。
なぜなら人間は感情や思考に多面性を持っている繊細な生き物であり、同じ環境で育っても一人ひ とり考え方も違うし、お金に対する価値観も違います。また、同じ人間でも置かれている経済状態 によっても違っています。
ですから、「遺言」によって、各相続人のいろいろな性格や環境、要素を考慮して、できるだけ 「公平」を目指すことも大事なことになります。
そのため、「想いを伝える遺言」つまり「付言事項」をしっかり書いて遺言者の想いを伝えること が重要です。
何故、遺産をこのように分けるようにしたのか、それにはこんな理由があるなど遺産分割に至った経緯、これまでの家族に対する感謝の気持ち、初めて家庭を持った喜び、長男が生まれた喜び、長女の小学校入学式のうれしさ、次男の高校入試合格の喜びなど、家族(相続人)に「メッセージ」を残すことが大事なのです。大切な人を失って悲しみにくれている家族に「メッセージ」を残すことは、生きる勇気を残すことになるのです。
付言事項は、ハートを残すことであり、これが無いと、財産の方にばかり目が向いてしまい、せっ かくの「遺言」が「冷たい財産分けの報告書」に過ぎなくなってしまいます。
「遺言」は「法的に有効な遺言」と「想いを伝える遺言」とが、バランスよく両輪になるようにす ると、血がかよった家族に対する「贈り物」に変るのです!
「遺言」の「付言事項」は家族に対するメッセージなので必ず書きましょう!
■遺言執行者を決めること
「遺言執行者」とは、遺言の内容を実現するため、遺言の執行に必要な一切の権利義務を有する人で、相続財産の管理や処分などに関する権限を持っています。以前は、「遺言施行者」は相続人全員の代理人とみなされていましたが、民法改正で、「遺言執行者」がその権限内で遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接その効力が生じることが明記されました。
「遺言執行者」が指定されていれば、名義変更手続き等がスムーズに進みます。
「遺言書」に「遺言執行者の指定が無い」場合で、「特定財産を相続させる」旨の無い遺言書の時は、不動産や預貯金の名義変更手続きは、相続人全員で行うことになります。
「遺言執行者」を遺言で指定しておきましょう!
■自筆証書遺言、公正証書遺言にするか遺言の種類を決定しておくこと
■遺言書の種類によるメリット・デメリット
| メリット | デメリット |
自筆証書遺言 | 手軽に作成できる 遺言の内容を 秘密にしておける (遺言書保管所に預ける場合除く) 遺言書保管所に預ける場合は、 偽造や紛失の恐れが無い 遺言書保管所に預ける場合は、 検認手続きが不要で、相続人に 迷惑をかけずにすむ | 様式不備で無効になる恐れがある 偽造や紛失の恐れがある 死後、発見されないことがある 開封に家庭裁判所の検認手続きが 必要で相続人の手間がかかる (遺言書保管所に預ける場合除く) 遺言書保管所に預ける場合は、内容を 登記官に知られる |
公正証書遺言 | 公証人が作成するので、様式不備で 無効になる恐れが少ない 原本を公証役場に保管するので、 偽造や紛失の恐れが無い 検認手続きが不要で、相続人に迷惑を かけずにすむ | 公証人手数料などの費用が発生する 内容を公証人と証人に知られる |
秘密証書遺言 | 遺言書の内容を秘密にしておける 代筆やワープロで作成できる 代筆の場合、筆記者の住所、氏名を 公証人に申述することが必要 | 様式不備で無効になる恐れが ある 紛失の恐れがある 公証人手数料などの費用が 発生する 開封に家庭裁判所の検認手続き が必要で相続人の手間がかかる |
各遺言書のメリット・デメリットをよく考慮して、遺言の種類を決めましょう。
■遺留分を考慮すること
遺言書を作成する場合、相続分の指定や遺贈などは、遺言者の自由ですが、すべての財産を勝手に相続人以外の人に遺贈してしまう場合には、遺された相続人の生活や相続の期待が守られなくなり、あまりに不公平になってしまいます。そこで、そうした不公平を緩和するための制度として「遺留分」があります。
「遺言書」を作成する場合は、遺留分を考慮することが必要です。せっかく「遺言書」を書いたのに、遺留分侵害があった場合は、遺留分侵害額請求をされてしまい、思わぬトラブルになることもあります。
「遺留分」とは、一定の相続人のために法律上確保されるべき最低限の相続できる割合をいいます。 「遺留分を有する相続人」は、兄弟姉妹以外の相続人全部です。
「遺留分の割合」は、①「直径尊属のみ」が相続人の場合=法定相続分の「1/3」 ②「その他」の場合=法定相続分の「1/2」となります。
「遺言」においても。「遺留分」は侵害できず、侵害した場合は、遺留分権利者は、遺贈や贈与 を受けた相手方に対して「遺留分侵害額請求権」による金銭請求ができます。
トラブルが無い遺言にするためには、遺留分に配慮して作成しましょう。
◆まとめ
遺言書を作成する前に、やっておくべき「基本的な7つの準備」とは、以下のとおりです。
■相続財産を調査すること
■相続人を確定すること
■遺言の内容を決定すること
■付言事項で記載するメッセージを決定しておくこと
■遺言執行者を決めること
■自筆証書遺言、公正証書遺言にするか遺言の種類を決定しておくこと
■遺留分を考慮すること
以上の「基本的な7つの準備」をしてから、遺言の作成に取り掛かりましょう。