◆「相続させる」と「遺贈する」とは違いがあるの?
遺言を作成する場合、「○○を~に相続させる」と記載するか、「○○を~に遺贈させる」と記載するかは、どちらでも変わりがないように思えますが、大きな違いがあります。以下詳しくみていくことにしましょう。
■「相続させる」と「遺贈する」という文言では大きな違いがあるの?
特定の遺産を「相続させる」という文言の場合は、相手は相続人に限られ、原則遺産分割方法の指定とされるので、相続開始と同時にその財産を固有に取得するものとされています。例えば不動産のケースでは、その相続人単独の申請によって、移転登記手続が可能です。
しかし、例えば「長女に財産の3分の1を相続させる」など、全てではなく割合を「相続させる」と記載したケースでは、どの財産が長女に帰属しているのかが分からないので、相続分の指定という扱いになり、遺産分割方法の指定とはされないので、上記の効果はありません。そして、さらに遺産分割協議という手続が必須となります。
これに対して、特定の遺産を「遺贈する」という文言の場合は、相手は相続人または法定相続人以外の人になり、受遺者に関する遺贈義務を相続人全員が引き継ぐことになります。例えば不動産のケースでは、相続人全員ないし遺言執行者からの申請によって、移転登記手続を行う必要があります。
■「相続させる」と「遺贈する」という文言での差異とは?
| 相続させる | 遺贈する |
不動産の名義変更手続き | 相続人の単独申請できる | 包括遺贈・特定遺贈のいずれの場合も、遺言執行者がいれば その人と、 いなければ相続人全員が登記義務者となり、 受遺者と共同で登記申請すること必要 |
登記無くして第三者に対抗できるか | 相続人は第三者に所有権を 対抗できる ただし、法定相続分を超える部分については登記が必要です | 包括遺贈・特定遺贈のいずれの場合も、相続登記が無ければ 第三者に対抗できない |
遺産が農地の場合、農地法3条の許可がいるのか | 農地法の許可が無くても、相続登記できる | 包括遺贈の場合は、農地法の許可は 不要 特定遺贈の場合は、農地法の許可は 必要 ただし相続人の場合は許可は不要 |
遺産が借地権・借家権の場合、賃貸人の承諾が必要か | 賃貸人の承諾は不要 | 包括遺贈の場合は、賃貸人の承諾は 不要 特定遺贈の場合は、賃貸人の承諾は 必要 ただし相続人の場合は許可は不要 |
■「代襲相続」はどうなるの?
「遺贈する」と「相続させる」の違いで注意すべきなのは、遺言で遺産を得る予定の人が、遺言者よりも先に死去した場合の代襲相続の扱いです。
これが「遺贈」であれば、「受贈者」が先に死去した際は、遺贈の効力が生じないことが明らかですので、「代襲相続」は問題になりません。
「相続させる」という内容の遺言では、遺言者に「代襲相続させる意向」があったとみるべき特別な事情がなければ代襲相続は行われない、というのが判例の立場です。遺言者に「代襲相続させる意向」があるときは、その旨が分かるように遺言に記載しておく必要があります。