◆「余命1週間」でも遺言をつくることができるの?
余命1週間である人が、有効に遺言を作成することができるかについて、以下みていくことにしましょう。
遺言は、「自筆証書遺言」や「公正証書遺言」が一般的ですが、この他にもいろいろな遺言の作成方法があります。余命1週間である状況を考慮すると、全身チューブでつながれているような状態であれば、自分で手書きする「自筆証書遺言」も作成は難しいと思われます。また、「公正証書遺言」を作成するにしても、公証人に病院に出張してもらわなければなりませんが、1週間ではスケジュールの調整が困難であると予想されます。
このような場合、民法では特別の方式を定めています。
遺言は、遺言者の真意を確保するため厳格な方式が要求されますが、特別の事情の下では、普通方式に従うことができない場合があり、この場合に方式に従っていないことを理由として遺言を無効とすることは現実にそぐわないことになってしまいます。そこで、民法は、普通方式の要件に従うことができない場合に、要件を緩和した4種類の特別の方式の遺言を認めています。
この遺言の方式は、「危急時遺言」と呼ばれていて、一般危急時遺言(976条)、伝染病隔離者の遺言(977条)、在船者の遺言(978条)、船舶遭難者の遺言(979条)があります。
ここでは、一般危急時遺言について考えてみましょう。
■ 一般危急時遺言の要件とは?
「一般危急時遺言」とは、疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときに認められた特別方式の遺言であり、民法976条で定められています。その要件は次のとおりです。
① 遺言者が立ち会った3人以上の証人の1人に遺言の趣旨を口授すること
② 口授を受けた証人がこれを筆記すること
③ 遺言者及び他の証人に読み聞かせ、または閲覧させること
④ 各証人が筆記の正確なことを承認したうえで、これに署名・押印すること
「一般危急時遺言」の方式として、「日付」は要求されません。また、署名・押印は証人3名だけが必要で、本人の署名・押印は不要になっています。
「一般危急時遺言」は、「遺言の日から20日以内に、証人の1人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない」と規定されています。また、「家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない」と規定されています。「一般危急時遺言」は、家庭裁判所における「確認」が必要とされているのです。この確認請求が期限内に行われなければ、遺言は有効とはなりませんので注意が必要です。
また、「危急時遺言」は、遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から6ヶ月間生存するときは、その効力を生じないと規定されています。 その時は、普通形式の遺言をあらためて作成することになります。
■結論、「余命1週間」でも遺言をつくることができます!
余命1週間の状態でも、「一般危急時遺言」の方式で遺言することは可能です。しかし、きちんと要件を満たすことが必要です。もちろん遺言の内容をどうするかについては、事前によく考えておくことが重要です。
「危急時遺言」は本人の自筆も公証人の立会いもなく、密室で作成されますので、後日、相続人間において有効・無効をめぐって大きなトラブルとなる可能性があります。
従って、「一般危急時遺言」の方式で遺言する場合は、医師の立会いや診断書の作成、録画する等、本人の真意に基づき作成されたものであることの証拠を残すことが、後日のトラブルを避けるためには必要となると思います。