◆生前に「贈与」を受けていたら?
被相続人から生前に、教育資金や結婚資金、住宅購入資金などの「贈与」を受けていた相続人がい
た場合はどうなるのでしょうか?
このような特別の利益を受けた相続人を「特別受益者」といいます。
このような特別の贈与は、「遺産の前渡し」と見ることができます。
これを無視して単純に遺産分割をすると、公平では無くなってしまいます。そこで、特別受益者が
生前に受けた贈与の額を相続財産に加えたうえで、各相続人の相続分を決めます。
これを「特別受益の持ち戻し」といいます。
◆特別受益にあたる場合とは?
1.婚姻や養子縁組のための贈与
新居の費用、結婚費用、新婚旅行の費用など
2.生計資本としての贈与
大学の入学金・学費、住宅取得費用、事業資金など
3.特定の相続人が受けた遺贈
遺言によって財産を遺贈された場合、その目的にかかわらず、遺贈された財産は、被相続人の相続
開始時の財産に含めて考えます。
これらの贈与・遺贈は特別受益にあたります。
特別受益に関して、「相続分のないことの証明書」に署名押印してほしいと他の相続人から言われることがあります。この場合は、よく注意して対応することが大切になります。
詳しくは、【相続ワンポイントコラム1.「相続分のないことの証明書」には注意しましょう!】を参照して下さい。
◆特別受益者がいる場合の相続分の具体的な算出方法とは?
以下の具体例に沿って計算してみましょう。
甲は、遺産として7,000万円を残して死亡した。相続人は妻乙と子A・B・Cである。甲は生前に、営業資金としてAに1,200万円を、結婚の支度金としてBに800 万円を与えており、Cには1,000万円を遺贈している。という場合で計算します。
※想定遺産額= 相続開始時の財産7,000+特別受益A1,200+特別受益B800=9,000万円となります。
| 想定遺産額による相続分算定 | 特別受益控除 | 相続分額 |
乙 | (7,000+1,200+800)×1/2=4,500 | ── | 4,500万円 |
A | (7,000+1,200+800)×1/2×1/3=1,500 | 1,500-1,200 | 300万円 (他に生前贈与 1,200万円) |
B | (7,000+1,200+800)×1/2×1/3=1,500 | 1,500-800 | 700万円 (他に生前贈与 800万円) |
C | (7,000+1,200+800)×1/2×1/3=1,500 | 1,500-1,000 | 500万円 (他に遺贈 1,000万円) |
※ここで加算されるのは生前の贈与だけであり、遺贈については相続開始時にはまだ遺産の中に含まれているから、加算されません。
※仮に特別受益に当たる生前贈与が具体的相続分を超えていた場合であっても、超過特別受益者はその相続分を受けることができないにとどまり、超過額を返還 する必要はありません。
これは、被相続人の自由意思で贈られた特別受益は、尊重されるからです。
◆特別受益の持ち戻しの免除とは?
被相続人が、遺言などで、贈与や遺贈の分について、特別受益の持ち戻しをしないと決めていた場
合は、「特別受益の持ち戻しの免除」があったとして取り扱います。これは、 遺留分を侵害してい
ない限り、 被相続人の自由意思を尊重するためです。
◆居住用不動産の贈与・遺贈に対する「持ち戻し免除の意思表示」の推定とは?
民法改正で、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、「その居住の
用に供する建物又はその敷地」について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又
は贈与について、特別受益の「持ち戻し免除の意思表示」をしたものと推定することになりまし
た。
つまり、生存配偶者の生活保障を図る趣旨から、居住用不動産の贈与・遺贈については、推定をく
つがえすような事実がない限り、居住用不動産の価額を持ち戻して計算する必要はないことになり
ました。
◆まとめ
1.生前に、教育資金や結婚資金、住宅購入資金などの「贈与」を受けていた場合は、「特別受
益」になります。
2「特別受益」は、「遺産の前渡し」と見ることができるので、遺産分割の時に、特別受益を相続
財産に加えて、各相続人の相続分を決めます。(これを「特別受益の持ち戻し」といいます。)
3.被相続人が、遺言などで、贈与や遺贈の分について、特別受益の持ち戻しをしないと決めていた
場合は、被相続人の自由意思を尊重して「特別受益の持ち戻しの免除」があったとして取り扱いま
す。
4.婚姻期間が20年以上の夫婦の生存配偶者の生活保障を図る趣旨から、居住用不動産の贈与・遺贈
については、特別受益の「持ち戻し免除の意思表示」をしたものと推定することになりました。