◆「借金」を相続したらどうなるの?
相続は、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も相続します。
相続財産の調査をする場合、プラスの財産ばかり探すことに注目しがちですが、後から請求されないためにも、マイナスの財産、特に「借金」「連帯保証債務」「保証債務」も、くまなく探すことが必要です。
債務の金額が資産に比べて大きい場合は、「相続放棄」等の手続きをすることも考えなければなりません。
◆相続の承認、放棄とは?
相続人は、その意思によって、財産を相続するかどうか決めることができます。
この場合、3つの方法があります。
1.プラスの財産が多いとき
この場合は、すべての財産・債務を引き継ぐ「単純承認」をします。
2.プラスの財産・マイナスの財産どちらが多いかわからないとき
この場合は、プラスの財産の範囲内で、債務を引き受ける「限定承認」をすることができます。「限定承認」とは、相続財産の範囲内でのみ債務を弁済することを条件として相続することです。
つまり、どんなに借金があっても、被相続人のプラスの財産の範囲内で返済すればいいので、残りの借金を負うことがありません。逆に、プラスの財産が債務を上回ったときは、債務を弁済した後に残った財産は、相続人が受け取ることができます。
ただ、「限定承認」は、財産目録の作成など清算手続きが煩雑で、しかも相続人全員で行う必要があるため、ひとりでも反対すると子の手続きは行えません。このような理由から、「限定承認」はあまり普及していないのが現状です。
3.マイナスの財産が多いとき
この場合は、すべての財産・債務を引き受けない「相続放棄」をすることができます。
ただし、一定の期間(3か月)内に相続の「放棄」も「限定承認」もしなかったとき、または期間内であったとしても、相続財産を消費するなどその意思が推断できる場合には、全面的に相続を承認したこと(法定単純承認)になり、相続財産に負債の多い場合でも、相続人の固有財産で弁済する責任を負うことになります。
◆「借金(債務)の相続」の場合、なぜ特に注意が必要なのか?
相続分の割合の決め方は、第1順位として、遺言による相続分の指定があり、遺言が無い場合には、第2順位として、遺産分割協議での決定があり、遺言も遺産分割協議もない場合には、第3順位として、法定相続分によってさだめられることになります。
■しかし、借金など「債務」については、仮に法定相続分の割合と違う割合で相続すると遺言・遺産分割協議で定めたとしても、【相続人間では有効】であるが【債権者には対抗できない】ということに十分な注意が必要です。
■例えば、相続財産が4000万円、相続借金(債務)が3000万円で、相続人が妻Aと子BCDの4人の場合で、相続人間で「すべての財産および債務も妻Aが承継する」と遺産分割協議で決めたとしても、債権者はそれを無視して子BCDにそれぞれ500万円ずつ法定相続分の割合どおり借金を請求することができます。(民法第902条の2)
■債権者が「承諾」してくれる場合は、法定相続分の割合と異なる負担割合も可能です。この場合、法律的には「免責的債務引受」になります。
債務引受(ある人が負っている債務を別の人(引受人)が債権者との合意によって承継することをいう )には、「免責的債務引受」と「重畳的債務引受」があります。
「免責的債務引受」とは、債務が当初の債務者以外の人に移転し、当社の債務者が債務を負担しなくなる携帯の債務引受のことです。債権者との合意もしくは同意が必要となります。
「重畳的債務引受」とは、債務が当初の債務者以外の人へ移転し、移転後も当初の債務者が重ねて引き続き債務を負担する携帯の債務引受です。連帯債務状態となります。債権者の同意は不要です。
■もし、債権者と協議する場合は、その内容に注意が必要です。
債権者によっては、免責的債務引受契約が同時に連帯保証契約を兼ねている場合もあります。
債権者(貸金業者・金融機関等)との交渉は慎重に行わなければなりません!
素人が予備知識無く交渉してしまうと、本来の債務相続よりも悪い内容になることもあります!
◆「連帯保証債務の相続」の注意点とは?
被相続人が、知人や会社等の借入金の「連帯保証人」になっている場合も要注意です。
「連帯保証人という立場」は、当然に相続します。つまり、相続人は保証債務も「その法定相続分」をもって当然承継します。それは、主債務者がちゃんと支払い、まだ具体的な請求権が発生していない場合も同様です。
「連帯保証債務の相続」は、実務的に多くあり、とても「怖い結果」を引き起こします。
■「連帯保証債務の相続」の具体例を考えてみましょう!
例えば、父Aは法人に経営者で、母Bはすでに亡くなっている場合で、長男C二男D長女Eがいる例を考えてみましょう。父Aは、法人の借入金1億5000万円の連帯保証を負っています。事業は長男Cが引き継ぐ予定で、二男Dはサラリーマンで、長女Eは専業主婦です。事業承継の準備中に父Aが急死してしまい、遺言書は無く、相続人は、長男C二男D長女Eとなりました。遺した遺産は、自社株(父Aが80%、長男Cが20%を保有)、実家不動産(長男C夫婦が同居)、預金1000万円でした。
長男Cが一方的にすべてを引き継ぐ旨の主張をしてきましたが、二男D長女Eは怒りもありましたがトラブルを避けるために、最終的にはハンコ代として二男D、長女Eとも各人200万円を受け取ることで合意しました。それから3年後、会社の経営状況が悪化して、会社は借入金1億5000万円の返済ができなくなりました。
そして、ある日突然に借入の保証会社から、二男D、長女Eに対して各自5000万円の支払を求める通知が届きました。
このような例の場合、二男D、長女Eは、どうなるのでしょうか?
結論から言えば、二男D、長女Eは、各自5000万円を支払わなければならないことになります。
これが、「連帯保証債務の相続」の怖いところです!
長男Cが、すべて引き継いだので、長男Cが借入金のすべてを返済すべきなのですが、債権者は、各相続人に対して法定相続分の割合で債務の履行を請求できるのです。しかも連帯保証債務は、相続発生後すぐでは無く、何年経っていたとしても、主たる債務者が債務不履行になった場合に、相続人に請求があることになりますので、とても恐ろしいのです。
■ここでの失敗はどこにあったのか?
1.遺産分割時に、父Aの連帯保証について、正式に解除されるかを確認すべきであったこと。
解除されるのであれば、合意解除書などの証明を確認すべきでした。
2.仮に解除が難しいのであれば、 二男D、長女Eは、相続放棄をして、長男Cから「贈与」としてハンコ代を受け取るべきであったこと。
相続放棄してあれば、 二男D、長女Eは初めから相続人でなかったことになるので、連帯保証も無関係になります。
ただし、、ハンコ代は、代償交付金では無く、あくまで協力したことへの「謝礼金」として、長男Cからの「贈与」として受け取ることが必要です。
長男Cから受け取るハンコ代が、贈与としてでは無く、代償分割の代償金として受け取った場合は、相続を承認したと取り扱われ、相続放棄はできなくなるので、注意が必要です。
3.生前から対策を取るのなら、協力金としてのハンコ代は、父Aが生命保険金で、長男Cに遺してあげることもできたこと。
事業承継を考える場合は、「早めの対策」を取ることが大切です!
◆法定単純承認(みなし単純承認)に注意しないと「相続放棄ができない」ことに?
相続が開始された場合、相続の承認・放棄は、相続人が「自己のために相続の開始があったことを知った時」から「3箇月以内」になされなければならないと規定されています。
相続人が相続するのかどうかを決定しないといつまでも法律関係が不安定で混乱がもたらされるので、相続人の意思表示が無くても、一定の行為をした場合は、相続を単純承認したとみなすと規定されています。
これが、「法定単純承認(みなし単純承認)」と呼ばれており、注意しないと相続放棄するつもりでいたのに、「法定単純承認(みなし単純承認)」に該当して、相続放棄ができなくなってしまうことがあります。
■どのような場合に「法定単純承認(みなし単純承認)」に該当するのか?
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす(民法第921条)
① 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき(1号)
② 所定期間内(承認又は放棄をなし得る「3か月内」)に、限定承認又は相続の放棄の手続をとらなかった場合(2号)
③ 相続人に限定承認又は相続の放棄を認めることが公平に反する場合(3号)
⒜ 相続人が限定承認又は相続の放棄をした後でも、相続財産の全部若しくは一 部を隠匿し、私に消費し、又は悪意で相続財産の目録中に記載しなかったような背信行為がある場合は、その相続人は単純承認したものとみなされます。
⒝ 「相続財産」には相続債務も含まれ、限定承認をした相続人が消極財産を悪意で相続財産の目録中に記載しなかったときにも、単純承認したものとみなされます。
■「法定単純承認」になる具体的な事例とは?
・相続財産の売却、相続財産である家屋の取り壊しや動産の毀損
・保存行為・一部の賃貸借等の管理行為は除外
・相続人が固有の財産で相続債務を返済する行為は除外
・相続した不動産・預貯金等の債権を換価して相続債務を返済する行為は該当するという説あり。
→相続財産管理人を選任し、相続財産管理人の元で行うべきです。
・アパート・マンションの賃借権の解約は除外
・借地権の解約は該当するという説あり。
・相続財産に含まれた債権を取り立てる行為
・代物弁済する行為
・株式に基づく株主権の行使
・遺産分割協議の参加など
※放棄可能な時期である3か月を経過していまくても、「法定単純承認」に該当する行為をしてしまったら、相続放棄・限定承認はできなくなります。
「処分」に該当する行為は、条文上明確ではないので、相続放棄・限定承認を考えている場合は、「相続財産には一切手を触れない!」ということが重要です。
■「相続分の放棄」と「相続放棄」と誤解しないこと!
「自分は、相続人間の協議で相続を放棄した」と言われる人がいますが、これは、法律の言う「相続放棄」ではありません。これは、単純承認した上での「相続分の放棄(相続分の譲渡)」です。
この場合、プラスの相続財産を受け取れない上に、借金などの債務は法定相続分どおりに承継していることになり、債権者から請求を受けた場合、その相続人の固有の財産で弁済するしかないことになります。この点は注意が必要です。
プラスの相続財産を一切受け取らない相続人がいる場合は、債務がある場合は当然のこと、仮に債務が無いと思われる場合でも、念のため「相続放棄」をすることをお勧めします。
なぜなら、遺産分割協議に参加することも「法定単純承認事由」になり、後日負債が発覚した場合の「相続放棄」が非常に困難であるからです。
◆限定承認とは?
「限定承認」とは、「相続によって得た財産の限度においてのみ債務及び遺贈を弁済する」という留保をつけ、一切の権利義務を承継する意思表示です。
あくまでも、財産も負債も全部相続する!そして、ただ、負債を支払う義務は相続によって得た財産額までとするということです。
相続によって得た財産額分を超える債務は、相続人固有の財産から弁済する必要がありません。
あくまで、債務の引当てになるのは「相続財産に限られる」という意味です。
逆に、相続人の固有の財産から、責任がないのに自主的に支払った場合、債務はすべて承継されているため、返還請求はできないことになってしまいます。
従って、債務超過案件の場合、くぐれも清算方法を間違わないように注意する必要があります。
■限定承認手続きの流れとは?
1.相続人全員で家庭裁判所に申立て
相続放棄との組み合わせができます。不要な方は先に相続放棄してもらいます。
2.限定承認の受理
申立て内容に問題が無ければ、家庭裁判所から「受理通知書」が届きます。その際に、併せて相続人の中から1名、相続財産管理人が指定されます。
3.官報公告 債権申出期間は最低2か月
債権の届け出をしてもらうため、判明している債権者・受遺者には通知を、不明な債権者のために官報公告を行い、名乗り出てもらいます。
4.被相続人の準確定申告 債権申出期間は最低2か月
不動産等の価格変動のある財産がある場合、「みなし譲渡課税」の申告を、相続発生後4か月以内かつ、限定承認受理後に被相続人の準確定申告の中で行わなければなりません。
5.相続財産の換価作業
相続財産管理人の元で、相続財産をお金に換える作業を行います。換価作業が終わるまでは、債権者への配当は原則行わなくてもいいことになっています。担保権者については、優先的に受け取れることになります。
6.債権者・受遺者への配当
相続財産の換価作業が終わり次第、債権者の債権額の割合で案分して、法で決められた順番で配当を行います。税金等は優先されて、受遺者は最後になります。
7.限定承認手続き完了 → 残った財産を相続人で分割
配当が完了したら、終了時に残余財産の目録を作成し、残った財産は相続人で分割してもいいことになっています。ただし、万が一新たな債権者が発覚した場合は、残余財産の金額に応じた支払いはしなければなりません。
◆相続放棄とは?
■相続放棄の意義と効果とは?
「相続放棄」とは、相続人が3か月以内にその自由意思によって一定の手続に従い、全面的に遺産の承継を拒否することをいいます。
「相続放棄」をすると、「初めから相続人では無かった」とみなされる効果があります。
「相続放棄」がなされた場合、「代襲相続」は起こらないことになります。
「相続放棄」の効果は強行規定であり、当事者はこれと異なる効果を与えることは 認められません。
相続税上は、「相続放棄」した相続人も基礎控除の人数には加えて基礎控除額を算出します。
相続権は、第1順位である相続人の子が全員相続放棄をすると、第2順位の相続人である直系尊属に移ります。さらにその直径尊属が全員相続放棄をすれば、第3順位の相続人である兄弟姉妹にまで、その権利義務が及びます。
被相続人の借金を理由に相続放棄するような場合は、順番に相続放棄の手続きをしていく必要がありますので、連絡を取り合って、もれなく手続きすることが必要です。
■相続放棄の手続きの流れとは?
1.相続人単独で家庭裁判所に申立て
相続が開始したことを知ってから原則3か月以内に、家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出します。
2.相続放棄の受理
申立て内容に問題が無ければ、家庭裁判所から「受理通知書」が届きます。
3.関係者に通知 ※状況に応じて
債権者、次順位の相続人等、影響のある相手に対して通知します。
4.次順位の相続人への財産の引渡
相続放棄したことにより、相続財産(負債等)が次順位の相続人へと移ったので、自身が管理している相続財産を次順位の相続人に引き渡します。
次順位の相続人がいない場合は、相続財産管理人へ引継ぐことが原則となります。
◆熟慮期間の問題とは?
「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に手続きをしなければなりま
せんが、この期間を「熟慮期間」といいます。
1.期間制限を設けた制度の趣旨とは?
いつまでも相続について、権利関係が確定しないのは法的安定性に欠けるためです。
相続は相続人だけのためにあるものではなく、相続債権者、受遺者、相続人固有の債権者にも、「相手方が誰になるのか、回収のための財産の帰属はどうなるのか」という意味で重大な関係があり、利害の調整等という観点から原則3か月と定めています。
2.「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは?
以前は、「被相続人の死亡を知ったときから」が判例通説でしたが、その後、判例変更され、「被相続人の死亡を知り」かつ「自己が法律上相続人となった事実を合わせて知ったとき」が熟慮期間の起算点であると改めました。
3.熟慮期間内において行うべきこととは?
相続を承認するのか、放棄するのか、を決めるためには、その前提として、相続財産の内容について調査する必要があります。そもそも3か月という期間は相続財産の調査期間にあたります。
相続債務について行う調査として、有用なのが個人信用調査機関への情報開示請求です。
日本にある信用調査機関は下記のとおりです。
①JICC(日本信用情報機構):主に消費者金融業者が加盟
②CIC;主に信販会社が加盟
③全国銀行信用情報センター:主に銀行・信金・信組・保証協会等が加盟
しかし、闇金融業者や個人間貸借は上記信用調査機関では調査できません。
被相続人の家事道具の中に、借用書が無いか、通帳から不明な振込や引落が無いか、生前の被相続人をよく知る人に聴いてみる等、地道な調査が必要となります。
このようなことで相続人に負担をかけないためにも、エンディングノートなどに記録しておくことが大事です。
4.期間伸長の申立てとは?
もし、3か月の熟慮期間内に調査が完了しなければ、期間伸長申立を行うことができます。
あくまで例外的な措置なので、伸長する理由が必要になります。
理由① 相続財産の種類や保管場所が多く時間を要する
理由② 相続人が海外におり、遠方からの調査のため時間を要する
理由③ 限定承認を進めにあたり相続人間で協議している等
通常、一度の伸長申立で3~6か月延長されます。
再度の伸長申立も可能です。
しかし、伸長申立の効果は、相続税納税期限には及ばないので注意が必要です。
5.最高裁による3か月の起算点の修正とは?(最判昭59.4.27)
社会の変化に伴い親(被相続人)の経済状態の把握が困難になってきて、救済できない事例が多くなってきているため、判例変更したと言われています。
最高裁は、従来通りの「相続人覚知時説」を原則としながら、一定の事情により起算日の例外を認める「起算日例外説」を新に打ち出しました。
一定の事情とは、①被相続人に相続財産(債務を含む)が全く存在しないと信じたこと②相続人において上記のように信じるについて相当な理由があること③相続人において相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があったことです。
これまでよりは柔軟に解釈されるようになったものの、あくまで最高裁は「相続財産(債務を含む)が全く存在しないと信じた場合」に限るとする限定説に立っているとされています。
下級審や家裁の実務では、非限定説の解釈を基に相続放棄の受理を認めることもあるようです。
◆再転相続とは?
「再転相続」とは、相続人が単純承認・相続放棄・限定承認いずれも選択することがないまま、熟慮期間内に死亡し、その死亡した者の相続人が、前相続人の承認・放棄する権利を取得することをいいます。
■再転相続の具体例を考えてみましょう!
例えば、祖父Aが死亡し、相続が発生、相続人は父Bの場合で、父Bが、祖父Aの相続につて承認するか放棄するか決めようとしていた矢先に急死。父Bについて相続が発生して、相続人は子Cである場合で、子Cはどのような手続きを選択できるのでしょうか?
「子Cが取り得る選択」は以下のとおりになります。
①子Cが祖父Aの相続を先に承認した場合は、その後、父Bの相続について、承認・放棄のいずれもできます。
②子Cが父Bの相続を先に承認した場合は、その後、祖父Aの相続について、承認・放棄のいずれもできます。
③子Cが父Bの相続を先に放棄した場合は、その後、祖父Aの相続について、承認・放棄のいずれもできます。
④子Cが祖父Aの相続を先に放棄した場合は、その後、父Bの相続について、承認・放棄のいずれもできます。
■再転相続の活用法(その1)とは?
(事例1)
祖父Aが死亡し、相続が発生し、相続人は父Bとなり、父Bが、祖父Aの相続について承認するか放棄するか決めようとしていた矢先に急死。父Bについて相続が発生し、相続人は子Cとなった場合で、祖父Aには多額の借金があり、他方、父Bには特に負債も無く、不動産・預貯金等の遺産がある場合のときを前提にします。
(問題点)
このまま子Cが、父Bの相続財産の遺産分割手続き等を進めてしまうと、父Bの相続財産には、祖父Aの遺した負債も含まれてしまうことです。どうすればいいのでしょうか?
(解決策)
祖父Aの相続放棄を再転相続人である子Cが行うことにより、父Bの相続財産から祖父Aの相続負債を排除できるようになります。
■再転相続の活用法(その2)とは?
(事例2)
祖父Aが死亡し、相続が発生し、相続人は父Bと父兄Dなり、父Bが、祖父Aの相続について承認するか放棄するか決めようとしていた矢先に急死。父Bについて相続が発生し、相続人は子Cとなった場合で、祖父Aには未分割の相続財産があり、他方、父Bには多額の債務があり、債務超過の場合のときを前提にします。
(問題点)
このまま子C、その後に父兄Dが父Bの相続財産(負債)の相続放棄手続き等を進めてしまうと、父Bの相続については相続人不存在の状態となります。この時、父Bの相続財産(負債)には、祖父Aの遺した未分割の相続財産(法定相続分)も含まれており、父兄Dが祖父Aの相続財産を遺産分割する際には、父Bの相続財産について、家庭裁判所にて相続財産管理人を立てなければならなくなり、さらには、父Bの法定相続分は相続財産管理人によって父Bの債権者に配当されてしまうことになってしまいます。どうすればいいのでしょうか?
(解決策)
祖父Aの相続放棄を再転相続人である子Cが行い、その後、子C、父兄Dの順番で父Bに対する相続放棄を行うことにより、父Bは祖父Aの相続財産を引き継がず、父兄Dは単独で祖父Aの相続財産を引き継ぐことができるようになります。
先に、祖父A相続について相続放棄して、その後、父B相続について相続放棄をすることが重要です!
◆相続放棄後の管理義務とは?
「相続を放棄した者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産と同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない」(民法第940条1項)
本来、相続放棄した者は、初めから相続人でなかったものとされるので、相続財産とは無関係でありますが、そのまま相続財産が管理されずに放置されると、次順位相続人や受遺者、相続債権者等に損害が生じる可能性があるので、一定期間だけ管理義務が残ることになっています。
一定期間とは、次なる財産管理人に引き渡すまでをいいます。
従って、 次順位相続人や受遺者、相続人不存在の場合は相続財産管理人に管理を引き継ぐまでは責任を負うことになります。
特に空き家問題は今後、確実に増加することが想定されているので、注意が必要です。
◆まとめ
1.相続は、プラスの財産だけでなく、借金、債務保証などマイナスの財産も相続します。
2.相続人は、その意思によって、財産を相続するかどうか決めることができます。
3.相続については、単純承認、相続放棄、限定承認の3つの方法があります。
4.「単純承認」とは、すべての財産・債務を引き継ぐことで、プラスの財産が多い時にします。
5.「限定承認」とは、相続財産の範囲内でのみ債務を弁済することを条件として相続することで、 プラスの財産・マイナスの財産どちらが多いかわからないときにすることができます。
6.「相続放棄」とは、すべての財産・債務を引き受けないことで、マイナスの財産が多い時にする ことができます。
7.借金など「債務」については、仮に法定相続分の割合と違う割合で相続すると遺言・遺産分割協議で定めたとしても、【相続人間では有効】であるが【債権者には対抗できない】ということに十分な注意が必要です。つまり、債権者は、相続人各人に法定相続分に応じて請求することができます。
8.被相続人が、知人や会社等の借入金の「連帯保証人」になっている場合も要注意です。
「連帯保証人という立場」は、当然に相続します。つまり、相続人は保証債務も「その法定相続分」をもって当然承継します。主たる債務者が債務不履行になれば、債権者は、相続人各人に法定相続分に応じて請求することができます。
9. 法定単純承認(みなし単純承認)に該当する行為をすると「相続放棄ができない」ことになりますので注意が必要です。
10.「相続分の放棄」と「相続放棄」と誤解しないこと!
「自分は、相続人間の協議で相続を放棄した」と言われる人がいますが、これは、法律の言う「相続放棄」ではありません。これは、単純承認した上での「相続分の放棄(相続分の譲渡)」です。この場合、プラスの相続財産を受け取れない上に、借金などの債務は法定相続分どおりに承継していることになり、債権者から請求を受けた場合、その相続人の固有の財産で弁済するしかないことになります。この点は注意が必要です。
11.相続放棄をする場合、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に手続きをしなければなりませんが、この期間を「熟慮期間」といいます。
「被相続人の死亡を知り」かつ「自己が法律上相続人となった事実を合わせて知ったとき」が熟慮期間の起算点であると改めました。
その後、最高裁は、従来通りの「相続人覚知時説」を原則としながら、一定の事情により起算日の例外を認める「起算日例外説」を新たに打ち出しました。
一定の事情とは、①被相続人に相続財産(債務を含む)が全く存在しないと信じたこと②相続人において上記のように信じるについて相当な理由があること③相続人において相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があったことです。
12. 「再転相続」とは、相続人が単純承認・相続放棄・限定承認いずれも選択することがないまま、熟慮期間内に死亡し、その死亡した者の相続人が、前相続人の承認・放棄する権利を取得することをいいます。
13.「相続放棄後の管理義務」とは、相続放棄した者は、初めから相続人でなかったものとされるので、相続財産とは無関係でありますが、そのまま相続財産が管理されずに放置されると、次順位相続人や受遺者、相続債権者等に損害が生じる可能性があるので、一定期間だけ管理義務が残ることになっていることをいいます。