(25)「改正相続法」はどんなところが変わったの?

知っておきたい法律の知識

◆相続法改正の趣旨とは?

1980年(昭和55年)以来,大きな見直しはされてこなかった相続法の分野について,2018年(平成30年)7月に,相続法制の見直しを内容とする「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」と,法務局において遺言書を保管するサービスを行うこと等を内容とする「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立しました。

民法には,人が死亡した場合に,その人(被相続人)の財産がどのように承継されるかなどに関する基本的なルールが定められており,この部分は「相続法」などと呼ばれています。

この相続法については,1980年(昭和55年)に改正されて以来,大きな見直しがされてきませんでした。一方,この間,我が国における平均寿命は延び,社会の高齢化が進展するなどの社会経済の変化が生じており,今回の改正では,このような変化に対応するために,相続法に関するルールを大きく見直しています。

具体的には,

⑴ 被相続人の死亡により残された配偶者の生活への配慮等の観点から,

  ① 配偶者居住権の創設

  ② 婚姻期間が 20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置

⑵ 遺言の利用を促進し,相続をめぐる紛争を防止する観点から,

  ① 自筆証書遺言の方式緩和

  ② 法務局における自筆証書遺言の保管制度の創設(遺言書保管法)

⑶ その他,預貯金の払戻し制度の創設,遺留分制度の見直し,特別の寄与の制度の創設などの改正を行っています。

以下、改正の主なポイントを見ていくことにしましょう。

◆今回改正の主なポイントとは?

■配偶者居住権の新設

(ポイント)

配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた場合に,配偶者は,遺産分割において配偶者居住権を取得することにより,終身又は一定期間その建物に無償で居住することができるようになります。被相続人が遺贈等によって配偶者に配偶者居住権を取得させることもできます。

(現行) 配偶者が居住建物を取得する場合には,他の財産を受け取れなくなってしまいます。

(改正) 配偶者は自宅での居住を継続しながらその他の財産も取得できるようになります。

■婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置

(ポイント)

婚姻期間が20年以上である夫婦間で居住用不動産(居住用建物又はその敷地)の遺贈又は贈与がされた場合については,原則として,遺産分割における配偶者の取り分が増えることになります。

(現行) 

贈与等を行ったとしても,原則として遺産の先渡しを受けたものとして取り扱うため, 配偶者が最終的に取得する財産額は,結果的に贈与等がなかった場合と同じになります。

➡ 被相続人が贈与等を行った趣旨が遺産分割の結果に反映されませんでした。

(改正) 

このような規定(被相続人の意思の推定規定)を設けることにより,原則として遺産の先渡しを受けたものと取り扱う必要がなくなり,配偶者は,より多くの財産を取得することができるようになります。 ➡ 贈与等の趣旨に沿った遺産の分割が可能となります。

■預貯金の払戻し制度の創設

(ポイント)

預貯金が遺産分割の対象となる場合に,各相続人は,遺産分割が終わる前でも,一定の範囲預貯金の払戻しを受けることができるようになります。

(現行) 

遺産分割が終了するまでの間は,相続人単独では預貯金債権の払戻しができません

平成28年12月19日最高裁大法廷決定により,

① 相続された預貯金債権遺産分割の対象財産に含まれることとなり,

② 共同相続人による単独での払戻しができない,  こととされました。

(改正)

遺産分割における公平性を図りつつ,相続人の資金需要に対応できるよう,預貯金の払戻し制度を設けることになりました。

⑴ 預貯金債権の一定割合(金額による上限あり)については,家庭裁判所の判断を経なくても金融機関の窓口における支払を受けられるようになりました。

預貯金債権に限り,家庭裁判所の仮分割の仮処分要件を緩和することになります。

⑴ 家庭裁判所の判断を経ずに払戻しが受けられる制度の創設

遺産に属する預貯金債権のうち,一定額については,単独での払戻しを認めるようになりました。 (相続開始時の預貯金債権の額(口座基準))×1/3×(当該払戻しを行う共同相続人の法定相続分)=単独で払戻しをすることができる額になります。

⑵ 保全処分の要件緩和仮払いの必要性があると認められる場合には,他の共同相続人の利益を害しない限り,家庭裁判所の判断仮払いが認められるようになりました。(家事事件手続法の改正)

■自筆証書遺言の方式緩和

ポイント)

自筆証書遺言についても,財産目録については手書きで作成する必要がなくなりました

(現行) 自筆証書遺言を作成する場合には全文自書する必要があります。

(改正) 自書によらない財産目録を添付することができるようになりました。

■法務局における自筆証書遺言の保管制度の創設について

ポイント)

自筆証書遺言を作成した方は,法務大臣の指定する法務局遺言書の保管を申請することができます。遺言者の死亡後に,相続人や受遺者らは,全国にある遺言書保管所において,遺言書が保管されているかどうかを調べること(「遺言書保管事実証明書」の交付請求),遺言書の写しの交付を請求すること(「遺言書情報証明書」の交付請求)ができ,また,遺言書を保管している遺言書保管所において遺言書を閲覧することもできます。

■遺留分制度の見直し

(ポイント)

⑴ 遺留分を侵害された者は,遺贈や贈与を受けた者に対し,遺留分侵害額に相当する金銭の請求をすることができるようになります。

⑵ 遺贈や贈与を受けた者が金銭を直ちに準備することができない場合には,裁判所に対し,支払期限の猶予を求めることができます。

(現行) 

① 遺留分減殺請求権の行使によって共有状態が生ずる。 ➡ 事業承継の支障となっているという指摘がありました。

② 遺留分減殺請求権の行使によって生じる共有割合は,目的財産の評価額等を基準に決まるため,通常は,分母・分子とも極めて大きな数字となる。 ➡ 持分権の処分に支障が出るおそれがありました。

(改正) 

① 遺留分減殺請求権の行使により共有関係が当然に生ずることを回避することができようになりました。     

② 遺贈や贈与の目的財産を受遺者等に与えたいという遺言者の意思を尊重することができるようになりました。

■特別の寄与の制度の創設

(ポイント)

相続人以外の被相続人の親族が無償で被相続人の療養看護等を行った場合には,相続人に対して金銭の請求をすることができるようになります。

(現行) 

相続人以外の者は,被相続人の介護に尽くしても,相続財産を取得することができません

(改正) 

相続開始後,長男の妻は,相続人(長女・次男)に対して,金銭の請求をすることができるようになりました。 ➡ 介護等の貢献に報いることができ,実質的公平が図られることになります。

◆改正内容の項目とは?

1.配偶者居住権保護のための方策

1)配偶者居住権

2)配偶者短期居住権

2.遺産分割等に関する見直し

1)配偶者保護のための方策-特別受益における持戻し免除の意思表示推定

2)預貯金債権の遺産分割における取り扱いについて

3)遺産分割前における遺産を処分した場合の遺産の範囲について

4)遺産分割の一部分割について

3.遺言制度に関する見直し

1)自筆証書遺言の方式緩和

2)自筆証書遺言の保管制度の創設

3)遺言執行者の権限について

4)その他

4.遺留分制度に関する見直し

1)遺留分減殺請求権の法的効果の見直し

2)遺留分算定方法の見直し

3)遺留分侵害額の算定と債務の取り扱いについて

4)金銭債務の支払に関する裁判所による期限の許与

5.相続の効力等に関する見直し

1)法定相続分超過部分の相続の効力について

2)相続による債務承継に関する規律

3)遺言執行者がある場合における規律

6.相続人以外の者の貢献を考慮するための方策(特別寄与制度)

◆改正相続法はいつから施行されるの?

改正法の規定は,以下のとおり,段階的に施行されることとされています。

○民法等の一部改正法

自筆証書遺言の方式を緩和する方策           →2019年1月13日

預貯金の払戻し制度,遺留分制度の見直し,

特別の寄与等(①,③以外の規定)     →2019年7月 1日

配偶者居住権(配偶者短期居住権を含む。)の新設等 →2020年4月 1日

遺言書保管法         →2020年7月10日

◆まとめ

1.今回改正の趣旨は、以下のとおりです。

相続法については,1980年(昭和55年)に改正されて以来,大きな見直しがされてきませんでした。一方,この間,我が国における平均寿命は延び,社会の高齢化が進展するなどの社会経済の変化が生じており,今回の改正では,このような変化に対応するために,相続法に関するルールを大きく見直しました

2018年(平成30年)7月に,相続法制の見直しを内容とする「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」と,法務局において遺言書を保管するサービスを行うこと等を内容とする「法務局における遺言書の保管等に関する法律」成立しました。

2.今回改正の主なポイントは、以下のとおりです。

配偶者居住権の新設

配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた場合に,配偶者は,遺産分割において配偶者居住権を取得することにより,終身又は一定期間,その建物に無償で居住することができるようになります。被相続人が遺贈等によって配偶者に配偶者居住権を取得させることもできます。

婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置

婚姻期間が20年以上である夫婦間で居住用不動産(居住用建物又はその敷地)の遺贈又は贈与がされた場合については,原則として,遺産分割における配偶者の取り分が増えることになります。

預貯金の払戻し制度の創設

預貯金が遺産分割の対象となる場合に,各相続人は,遺産分割が終わる前でも,一定の範囲預貯金の払戻しを受けることができるようになります。

自筆証書遺言の方式緩和

自筆証書遺言についても,財産目録については手書きで作成する必要がなくなりました

法務局における自筆証書遺言の保管制度の創設について

自筆証書遺言を作成した方は,法務大臣の指定する法務局遺言書の保管を申請することができます。遺言者の死亡後に,相続人や受遺者らは,全国にある遺言書保管所において,遺言書が保管されているかどうかを調べること(「遺言書保管事実証明書」の交付請求),遺言書の写しの交付を請求すること(「遺言書情報証明書」の交付請求)ができ,また,遺言書を保管している遺言書保管所において遺言書を閲覧することもできます。

遺留分制度の見直し

⑴ 遺留分を侵害された者は,遺贈や贈与を受けた者に対し,遺留分侵害額に相当する金銭の請求をすることができるようになります。

⑵ 遺贈や贈与を受けた者が金銭を直ちに準備することができない場合には,裁判所に対し,支払期限の猶予を求めることができます。

特別の寄与の制度の創設

相続人以外の被相続人の親族が無償で被相続人の療養看護等を行った場合には,相続人に対して金銭の請求をすることができるようになります。

3.施行期日は下記のとおりです。

民法等の一部改正法

自筆証書遺言の方式を緩和する方策            →2019年1月13日

預貯金の払戻し制度,遺留分制度の見直し

特別の寄与等(①,③以外の規定)       →2019年7月 1日

配偶者居住権(配偶者短期居住権を含む。)の新設等   →2020年4月 1日

遺言書保管法           →2020年7月10日

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