◆「相続人不在」の場合はどうなるの?
ある人が死亡したとき、相続人のあることが明確でないことがあります。このような場合は、一方では相続人を探し出す必要があります。また同時に、相続人が現れるまでの間、相続財産を管理し、又は、もし現れなければ最終的に清算しなければならないことが必要になります。
この2つの目的を実現しようとするのが、「相続人の不存在」の制度です。
民法では、相続人がいることが明らかでない場合、相続財産は、「相続財産法人」という特殊な法人としてお使われ、家庭裁判所で選任される「相続財産管理人」の管理下におかれます。「相続財産管理人」は、相続人を探すなどの手続きを行います。
◆「相続財産法人」とは?
相続人全員が欠格・廃除・放棄などによって相続権を有しなくなった場合など、相続人が存在しない場合は、相続財産は1個の法人である「相続財産法人」として扱われることになります。
「相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする」(民法951条)
ここで言う「相続人のあることが明らかでないとき」とは、相続開始時において相続人の有無が不明のことをいいます。戸籍上相続人が存在するが、その相続人が行方不明や生死不明の場合は、本条の手続ではなく、不在者の財産管理・失踪宣告の規定(民法25条以下)によることになります。
◆「相続財産管理人」とは?
相続人が存在しない場合は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所が「相続財産管理人」を選任し、その公告を行ないます。
◆相続財産の「清算手続き」とは?
この「相続財産管理人」選任公告から2ヶ月を経ても相続人の存在が明らかでない場合には、「相続財産管理人」は、相続財産の「清算手続き」に入ることになります。
<相続財産の清算手続き>
① 請求の申出を求める公告 | 相続財産管理人は2ヶ月を下らない期間を定めて、 一切の相続債権者・受遺者に対してその請求を求める 公告を行ないます。 この請求期間内に申出があれば、期間満了ののち 清算手続きに入ることになります。 |
② 相続人捜索公告 | 上記の公告期間が終了してもなお相続人が存在しない場合 には、家庭裁判所は、管理人又は検察官の請求により6ヶ月 を下らない期間を定めて、相続人にその権利を主張するよう 公告を行ないます。 相続人の存在が明らかになった場合は、清算手続きは 終了しますが、この期間内に申出がなかった場合には、 相続人や相続債権者及び受遺者は確定的に「存在しない」 ことになります。 |
③ 特別縁故者への財産分与 | 被相続人と生計を同一にしていた者や被相続人の 療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故が あった者いわゆる特別縁故者は、相続人捜索公告の 期間満了後3ヶ月以内に、家庭裁判所に財産分与を 求めることができます。 家庭裁判所は、特別縁故者に当たるか否かを等 一切の事情を考慮した上で判断することになります。 |
④ 国庫への帰属 | 相続人捜索公告期間満了後3ヶ月以内に特別縁故者 からの申出がなく、又は財産分与が行なわれてもなお 財産が残る場合には、相続財産は国庫に帰属し、 相続財産法人は消滅することになります。 |
◆「特別縁故者」に対する相続財産の分与とは?
相続人としての権利を主張する者がいない場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者 その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができることになっています。(民法958条の3第1項)
⑴ 意義
文言上は「被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた 者その他被相続人と特別の縁故があった者」と定めていますが、前2者は例示にすぎず、いかなる者が特別縁故者であるかは、裁判所の裁量に委ねられています。
⒜ 「被相続人と生計を同じくしていた者」とは、例えば、内縁の妻、事実上の養子、事実上の養親
⒝ 「相続人の療養看護に努めた者」
⒞ 「特別の縁故があった者」などが「特別縁故者」とされています。
⑵ 法的性質
判例では、特別縁故者が財産分与を受ける権利は、家庭裁判所における審判によって形成される権利にすぎないとされています。
⑶ 共有者の1人が相続人なくして死亡した場合の処理
判例では、共有者ABCのうちのAが相続人なくして死亡した場合に、特別縁故者Dがいるとき、特別縁故者の相続財産に対する期待を保護すべく民法958条の3(特別縁故者に対する相続財産の分与)が優先適用され、 Aの持分は特別縁故者Dに帰属するとされています。
◆残余財産の国庫への帰属とは?
処分されなかった相続財産は、国庫に帰属することになります。(民法959条)
相続財産の「清算手続き」は、かなり時間がかかる手続き(早くても13か月以上)になり、家庭裁判所での手続きもありますので、もし、現時点で自分の財産を相続する人が誰もいない場合は、「遺言」で自分の財産を渡す人や団体などを指定しておくといいのではないでしょうか。
◆まとめ
1.「相続財産法人」とは?
相続人全員が欠格・廃除・放棄などによって相続権を有しなくなった場合など、相続人が存在しない場合は、相続財産は1個の法人である「相続財産法人」として扱われることになります。
2.「相続財産管理人」とは?
相続人が存在しない場合は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所が「相続財産管理人」を選任し、その公告を行ないます。
3.相続財産の「清算手続き」とは?
この「相続財産管理人」選任公告から2ヶ月を経ても相続人の存在が明らかでない場合には、「相続財産管理人」は、相続財産の「清算手続き」に入ることになります。
4.「特別縁故者」に対する相続財産の分与とは?
相続人としての権利を主張する者がいない場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者 その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができることになっています。(民法958条の3第1項)
5.残余財産の国庫への帰属とは?
処分されなかった相続財産は、国庫に帰属することになります。