◆「相続手続き」・「死後事務手続き」とは何なの?
人が亡くなると、その時から遺族には、さまざまな「手続き」が求められます。大事な人を失って悲しみに暮れるさなか、この膨大で煩雑な「手続き」をこなすためパニックになってしまう方もいらしゃいます。
死後行う「手続き」を、2つに分けて考えると整理がしやすくなります。
それは、「相続手続き」と「死後事務手続き」に分けてみることです。
■「相続手続き」とは?
ひとつは、「相続手続き」です。これは、相続が開始してから相続財産の権利が確定し、遺産についてしかるべき相続人に名義変更するまでの必要な一連の「手続き」をいいます。
「相続手続き」の目的は、被相続人の遺産をしかるべき相続人に名義を変更することです。
「相続手続き」の流れは次のようになります。
①相続人を調査・確定する
②相続財産を調査・確定する
③遺産分割協議をする(遺言があればそれに従います)
④遺産の名義変更をする
その後、必要がある方は、相続税の申告・納付をすることになります。
上記の項目の詳細は、それぞれの項目のコラムを参照して下さい。
■「死後事務手続き」とは?
もうひとつは、「死後事務手続き」です。「相続手続き」以外の故人の死後に必要な一連の「手続き」をいいます。「死後事務手続き」は、手続き期限が短いものが多いので、できれば「相続手続き」をする前に早めに済ませておきたいものです。
以下、具体的に「死後事務手続き」の内容をみていきましょう。
1.死亡届、火葬・埋葬の手続き
■死亡届
故人が亡くなった後、最初にしなければならないのが、「死亡届」の提出です。立ち会った医師から「死亡診断書」を受け取ります。死亡診断書と死亡届はA3の用紙1枚のセットになっていますので、必要事項を記載します。
病気以外の事故などで、亡くなったときは、警察がその遺体を検案して、「死体検案書」を作成します。これは、死亡診断書と基本的に同じものです。
①提出先:故人も本籍地、死亡地、届出人の住所地のいずれかの市区町村役場、24時間提出可
②届出人:同居の親族、その他の親族、親族関係のない同居人、家主、地主、家屋や土地の管理人、後見人など
③必要書類:死亡診断書または死体検案書
④提出期限:死亡診断書の発行後、死亡を知った日から7日以内
死亡診断書と死亡届は、後でさまざまな局面で使用しますので、すぐ提出できるように、提出前に多めにコピーを取り、保管しておくことをお勧めします。生命保険の支払請求など一部の手続きでは、コピーが使用できないので、死亡届の正式な写しである「死亡届の記載事項証明書」の発行を死亡届の提出先、届出人の本籍地の市区町村に請求することができます。
死亡届の手続きをする人は、配偶者や喪主の他、親族でも構いません。印鑑があれば、葬儀社による代行も可能となっています。
■火葬許可証・埋葬許可証
死亡届の提出と同時に、「火葬許可申請書」の提出も行います。
不備が無ければ、役所はその場で「火葬許可証」を発行します。死亡届は、24時間受付が可能ですが、火葬許可申請書の受付は自治体によっては、夜間は受け付けていない場合もあるので、確認が必要です。「火葬許可証」は、遺体を火葬するために必要な書類で、火葬場に提出します。
火葬が終わると、骨壺と共に火葬済みの証印が押された火葬許可症が返却され、それが「埋葬許可証」となります。「埋葬許可証」は、納骨の際、必要となり、墓地や納骨堂などに提出しなければ埋葬できなくなるので、大切に保管して下さい。火葬場では骨壺を納める桐箱に一緒に入れてくれることもあるので、確認してみましょう。
2.健康保険に関する手続き
公的医療保険には、自営業者や無職の人が加入する「国民健康保険」と、会社員が加入する「健康保険」、公務員が加入する「共済組合」、75歳以上の方が加入する「後期高齢者医療制度」などがあります。
いずれも場合でも、死亡によって被保険者の資格を失うことになりますので、市区町村や健康保険組合などに、それぞれの「被保険者証」の返却をしなければなりません。
なお、故人が要介護保険の受給者で、介護保険の認定を受けていた場合、「介護保険被保険者証」の返却と「介護保険資格喪失届」を提出しなければなりません。
■国民健康保険に加入していた場合(後期高齢者医療制度も同じ)
住所地の市区町村に、「国民健康保険資格喪失届」を提出します。自治体によっては、死亡届提出による戸籍の届け出を行うだけで、この資格の喪失手続きが一緒に行われることもあります。そうでない場合は、自分で手続きを行います。「国民健康保険被保険者証」の返却も忘れず行いましょう。
故人が世帯主になっていて、その家族も国民健康保険に加入していた場合、別途手続きを行い、世帯主を変更し、新たな保健証を発行してもらう必要があります。
喪主など葬儀を執り行った人は、「葬祭費」の請求ができます。「葬祭費」の金額は各市町村で異なり、故人の住所地の市区町村役場に「国民健康保険葬祭費支給申請書」を提出します。
葬儀の日の翌日から2年以内の申告制で、それを過ぎると時効でもらえなくなりますので、忘れず請求するようにしましょう。
■健康保険に加入していた場合
故人が、「組合健保」、「協会けんぽ」といった健康保険に加入していた場合は、基本的に事業主が手続きを行ってくれますので、遺族の方から何か申請を行う必要はありません、故人の家族も、被保険者としてその企業が加入している健康保険に入っているときは、家族の「健康保険被保険者証」も返却が必要です。
その場合、家族の健康保険が無くなってしまうので、改めて個別に「国民健康保険」に加入するか、他の家族の「健康保険」の被扶養者になるのかを選択しなければなりません。
その後の手続きは、国民健康保険ならその窓口で、別の家族の健康保険の被扶養者になるなら、職場などの担当者に確認しましょう。
埋葬を行った者に対して、埋葬料(埋葬費)が支給されます。埋葬を行った者は、「健康保険埋葬料請求書」を提出して請求します。「埋葬料」は、故人により生計を維持していた人が請求した場合で、「埋葬費」は、家族以外の人で実際に埋葬を行った人が請求した場合に支給されます。扶養家族が死亡した場合は、「家族埋葬料」が支給されます。支給先は、全国健康保険協会または健康保険組合です。
また、死亡した原因が業務上、または通勤中の事故で会った場合は、労災保険から「葬祭料(葬祭給付)」が支給されます。
どちらの場合も、葬儀の日の翌日から2年以内の申告制で、それを過ぎると時効でもらえなくなりますので、忘れず請求するようにしましょう。
3.年金に関する手続き
■「年金受給者死亡届」の手続き
故人が受け取っていた国民年金や厚生年金、共済年金などは、死亡により支給が停止になります。年金の支給を停止するには、遺族が「年金受給者死亡届」を提出します。提出先は、最寄りの年金事務所または年金相談センターです。
期限は、国民年金は死後14日以内、厚生年金は死後10日以内に提出しなければなりません。
届出が遅れると、後で過払い分の年金を返還しなければならないので注意しましょう。
■「未支給【年金・保険給付】請求書」の手続き
年金は死亡月の分まで支給されますが、故人が受け取るはずだった年金がある場合は、遺族に未支給年金分が支払われます。「未支給【年金・保険給付】請求書」を年金事務所に提出して請求します。遺族とは、故人と生計を同じくしていた親族で、優先順位は、①配偶者②子③父母④孫⑤祖父母⑥兄弟姉妹の順番で受給資格があります。
■遺族年金の手続き
一家の大黒柱である世帯主を失った遺族の生活安定のための制度が、遺族年金です。
遺族年金がもらえるのは、故人によって生計を維持されていた遺族で、原則として遺族の前年の年収が850万円未満であること、または所得が655万5千円未満であることが要件となります。故人の死亡時に条件の年収を超えていても、おおむね5年以内に、退職や廃業などによって年収が850万円未満になると認められる事由のある方も該当します。
遺族年金には、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類があり、故人の年金の納付状況などにより、いずれか、または両方を受け取ることができます。
「遺族基礎年金」を受給できる遺族は、18歳になって最初の3月までの子、あるいはその子を持つ故人の配偶者です。
「遺族厚生年金」は、受給できる範囲が広く、妻、子や孫、55歳以上の夫、父母、祖父母が対象者になります。
しかし、子のいない妻は、夫が死亡時に30歳未満の場合、5年間しか受給できないなどの細かい規定があります。
また、遺族基礎年金をもらえない人を助ける「死亡一時金」「寡婦年金」の制度もあります。
遺族年金制度はとても複雑です。年金や一時金の受給権の有無や受給の仕方は、最寄りの年金事務所や年金相談センターに相談しましょう。
4.死亡保険金受取りの手続き
生命保険に関する死亡時に必要な手続きは、2つあります。
1.被相続人が保険契約者で、被保険者でない生命保険について
この場合は、その保険契約の権利を相続人が承継するので、相続手続きを経て、契約者の変更手続きをすることになります。
2.契約者に関わらず、被相続人が被保険者である生命保険について
この場合は、被保険者の死亡という保険事故の発生によって、生命保険金が支払われるので、相続手続きは不要で、生命保険金の受取者の固有の権利として、受取手続きをすることができます。
死亡保険金の請求期限は3年(簡易保険は5年)です。
契約形態によって、課税される税金が異なります。また、相続税が課税される場合で、受取人が相続人のときは、生命保険金の非課税枠の適用があります。
■死亡保険金の課税関係はどうなるの?
被保険者Aが死亡して、保険受取人が「死亡保険金」を受け取った場合は、保険契約の内容によって、「税金の種類」は次のとおりになります。
被保険者 | 保険料負担者 | 保険金受取人 | 税金の種類 |
A | B | B | 所得税 |
A | A | B | 相続税 |
A | B | C | 贈与税 |
保険料負担者と受取人が同じ場合は、「所得税」になります。所得税が課税される場合、死亡保険金を一時金で受領した場合は「一時所得」になり、死亡保険金を年金で受領した場合は「雑所得」になります。
保険料負担者と受取人が違う場合は、「贈与税」になります。
それ以外は、死亡を原因としているので「相続税」が課税されます。
5.準確定申告について
収入があれば、毎年確定申告をするのが基本です。サラリーマンであれば、年末調整というかたちで代行してもらえますが、個人事業者や年金生活者は、基本的に確定申告しなければなりません。
しかし、亡くなってしまったら、申告の方法が変わり、「準確定申告」という相続人が故人に代わって行うことになります。前年の申告から亡くなるまでの期間の所得等が、条件に当てはまる場合だけ申告することが必要です。
年金生活者であった故人の年金受給額が、年間400万円以下で、かつ年金以外の所得が20万円以下なら、遺族は「準確定申告」をする必要はありません、
一方、「準確定申告」をする必要があるのは、故人に多額の収入があったと予想されるときです。給与でなくても、不動産所得や譲渡所得等がある場合は、申告しなければなりません。
「準確定申告」は、相続人が相続を知った時から4か月以内に行う必要があります。
「準確定申告」を行う人は、故人の相続人となりますが、複数いるときは、申告書に連署する必要があります。
申告の計算期間は、1月1日から死亡の日までとなりますが、1月1日から3月15日までの申告期間に亡くなった場合は、故人が前年の申告をしていない状態となるので、相続人が2年分の「準確定申告」をする必要があります。
6.支払いの名義変更手続き
故人が契約していたサービスの停止や解約、清算などの手続きも、残された遺族に課せられた手続きのひとつです。以下のような手続きがあります。
①公共料金
電気、ガス、水道などは、電話またはインターネットで行うことができます。領収書などに記載されているお客様番号を伝えるとスムーズです。自動引き落としになっている場合が多く、口座が凍結されていると料金の支払いができなくなるため、早めに手続きをしましょう。
②固定電話の加入権
解約はインターネットで申し込むことが可能です。
③携帯電話やインターネット
携帯電話の解約は、携帯電話会社の窓口で、インターネットの解約は、プロバイダーのサポートセンターに連絡をします。
④クレジットカードや会員カード
クレジットカードの支払い口座が凍結されていると未払い状態になってしまうので、早めの手続きが必要です。スポーツクラブの会員カード等もそのままにしていると、年会費が生じることがあるので注意しましょう。
⑤運転免許証やパスポート
有効期限が過ぎれば失効しますが、原則返却する必要があります。運転免許証は最寄りの警察署へ、パスポートは最寄りのパスポートセンターや旅券事務所へ返却します。
⑥賃貸借契約
故人の名義で賃貸借契約した建物に遺族が引き続き住む場合は、契約者の変更手続きが必要で、賃借建物を解約、明け渡しする場合も手続きが必要なので、どちらの場合も管理会社や貸主に問い合わせをしましょう。
7.その他の手続き
その他以下のような手続きがあります。必要に応じて手続きしましょう。
①世帯主変更届(世帯主が亡くなった場合)
②児童扶養手当手続き
世帯主が亡くなって、子が18歳になって最初の3月まで受給できる可能性があります。児童扶養手当受給のためには、市区町村役場へ「児童扶養手当認定請求書」を提出し、審査を受けなければなりません
③復氏届
配偶者が亡くなった場合、それまで故人の姓を名乗っていた場合、その姓を名乗り続けるか、結婚前の姓に戻るかは本人の自由です。以前の姓に戻る場合は、「復氏届」を提出します。亡くなった配偶者の戸籍から抜け、結婚前の戸籍に戻るのです。子がいる場合は、子の姓はそのままなので、子の姓も結婚前の姓にする場合は、家庭裁判所に「子の氏の変更許可申立署」を提出して受理された後、入籍届を提出して戸籍に入れます。
④姻族関係終了届
旧籍に戻っても、配偶者の血族との親族関係はそのままです。この関係を放棄したい場合は、「姻族関係終了届」を住所地の市区町村役場に提出することで、故人の家族との関係を解消することができます。
⑤高額療養費支給申請、介護保険給付費支給申請
生前、故人が多額な医療費を支払っていたら、相続人が一定額以上の医療費の差額分の支給を請求できる制度です。介護保険でも同じような「介護保険給付費の支給申請」があります。
⑥団体信用生命保険手続き
住宅ローンに団体信用生命保険が付保されている場合は、契約者の死亡に関する詳細な通知をして「団信弁済届(死亡用)」を提出すれば、保険会社が生命保険金を支払い、それで住宅ローンが完済されるという仕組みです。
8.預貯金口座の凍結されても一定額は引き出し可能に!
金融機関は、名義人が亡くなると、故人の相続財産を守るため、口座を凍結するのが基本です。
相続が進み、遺産の分割内容が決定すれば、口座の凍結も解除できます。
遺言書があり、それに従って相続するのであれば、相続関係の証明書類さえあれば凍結解除もスムーズにいきます。
一方、遺言書が無い場合は、遺産分割協議で分割を決めることになりますが、これはどうしても時間がかかりがちです。うまく進まず調停までもつれ込むと何年もかかるかもしれません。
そんな事態を解消するために、相続法改正で、2019年7月1日から、預貯金が遺産分割の対象となる場合、各相続人は遺産分割前でも単独で、各金融機関の預貯金の1/3に法定相続分をかけた金額(上限150万円)までは、各相続人が引き出すことができるようなりました。これで葬儀費用や税金の支払いなどに利用することが可能になりました。
◆まとめ
1.人が亡くなると、遺族には、さまざまな手続きが求められます。大事な人を失って悲しみに暮れるさなか、この膨大で煩雑な手続をこなしていかなければなりません。
2.死後行う手続きを、「相続手続き」と「死後事務手続き」と分けて考えると整理がつきます。
3.「相続手続き」の目的は、被相続人の遺産をしかるべき相続人に名義を変更することで、流れは次のようになります
①相続人を調査・確定する
②相続財産を調査・確定する
③遺産分割協議をする(遺言があればそれに従います)
④遺産の名義変更をする
4.「死後事務手続き」は、相続手続き以外の故人の死後に必要な、以下のような一連の手続きをいいます。「死後事務手続き」は、手続き期限が短いものが多いので、できれば早めに済ませておきたいものです。
1.死亡届、火葬・埋葬の手続き
2.健康保険に関する手続き
3.年金に関する手続き
4.死亡保険金受取りの手続き
5.準確定申告について
6.支払いの名義変更手続き
7.その他の手続き
8.預貯金口座の凍結がされても、一定額までは各相続人が引き出し可能になりました。