◆「財産管理等契約」「死後事務委任契約」って何なの?
40代・50代になると、親を看取り、相続や死後事務手続きを経験し、大病を患った経験がある方が多くなってきます。そういう方は、自分の今後の人生を考えて、いろいろな悩みや不安が出てきます。
自分が身体が弱ってきたらどうしようか、認知症になったらどうしようか、亡くなった後の始末はどうしようか、身寄りがいても死後に煩わせたくない、などの対応策を考える機会が増えてきます。
まずは、自分の悩みごとや不安を整理し、どんな対応策があって、誰に相談すべきかを知ることが重要です。
私どもの事務所もこのような相談をお受けして、それぞれの内容に最適な対応策を提示させていただいております。
このような悩みや困りごと不安を解消するための対応策を、次に概括して考えてみましょう。
■ 具体的な悩みごと、困りごと、不安とその具体的な対応策とは?
悩みごと・困りごと・不安 | 具体的な対応策 |
独り身で、子供や身寄りがいない 配偶者と死別、子供とも疎遠である 認知能力の変化を第三者の立場から見てほしい | 「見守り契約」 電話や面談等で月1~2回連絡し、見守る 財産管理の委任等の開始時期を見極めに役立つ 独り身にとっては定期連絡がライフラインに |
子供がおらず配偶者に十分な財産を遺したい 独り身で財産を分け与えたい特定の人がいる 社会福祉団体や公益団体に財産を贈りたい | 「遺言」 財産の分け方を意思表示する 法定相続人以外の人に財産を渡せる 公益公人などに財産を遺贈できる |
けがや病気で日常生活が不自由になりそう 介護施設に入所し日常の財産管理が難しい 子供がいない、頼れる身寄りがいない | 「財産管理等委任契約」 銀行、郵便局との取引、保険契約に関すること 定期的な収入の受取、費用の支払いに関すること 生活費の送金や財産の取得や物品の購入に関すること 医療、介護など福祉サービスの利用に関すること |
認知症になりそう、将来なった時のことが心配 子供がおらず、将来のことを任せたい人がいる 自分の将来設計に応じて、頼むことを考えたい | 「成年後見制度・任意後見」 預貯金など財産管理や日常の支払いなどお金に関すること 入院や介護施設への入所など契約に関すること 後見人は親族、弁護士などを自分で探して選ぶ |
認知症を発症し、判断能力が不十分になった 銀行等から成年後見制度の利用を求められた 遺産分割協議に参加しても十分な判断能力が無い | 「成年後見制度・法定後見」 生活に必要な預貯金の出し入れ、費用の支払い 遺産分割協議に参加、介護施設との契約など 後見人は家庭裁判所が選ぶ |
会社の経営権を特定の相続人に渡したい 認知症になっても賃貸不動産の運用や処分を任せたい 親亡き後の障がいがある子の財産管理を任せたい | 「家族信託」 財産を任せられる家族に信託し、利益は受取たい 認知症になっても、当初の契約通り財産を引き継ぎたい 二次相続以降の承継先を決めておきたい |
子供がおらず、死後の手続きのことを頼めない 身寄りがいない、 いても死後に煩わせたくない 葬儀や供養の方法に明確な希望がある | 「死後事務委任契約」 遺体引取りや葬儀のこと、親戚・知人への連絡 死亡届、埋葬許可申請等の手続き 施設・病院への費用の支払い 入所施設や賃貸物件からの退去・清算手続き 遺品整理や納骨に関すること |
このように、悩みごと・困りごと・不安に応じて、また、本人の健康状態の程度に応じて、選択する対応策もいろいろあることになります。
実務的には、各個人の希望や内容によって、「複数の対応策」を組み合わせて実施していくことが重要になってきます。
これらの対応策を実施することは、悩んでいる方の抱える「不安や不便を解消する手段」であり、また「人生を豊かにするための手段」という大きな目的を持つことになります。
以下、具体的な対応策について、個別にみていくことにしましょう!
■「見守り契約・身元引受契約」って何なの?
「見守り契約」とは、任意後見契約を締結して任意後見が開始されるまでの間、支援する人と本人が定期的に連絡をとる契約をいいます。
定期的に連絡を取ることで、本人の生活や健康状態を把握し、見守ることがこの契約の目的です。
定期的に連絡を取っておくと、たとえば任意後見を開始する時期について相談することや開始のタイミングを決定してもらうことができます。
見守り契約の書式や内容は、自由に決めることができます。
主として①契約の目的②面談・連絡方法③見守り義務④報酬等について記載します。
契約内容は、当事者の合意があれば、いつでも変更することができるので、本人の生活環境や心身の状態などが変化した場合には、見直すこともできます。
「身元引受契約」とは、入院や介護施設に入所することになった場合、身元引受人や緊急連絡先として対応するというサポートを開始する契約です。身寄りのない人や、身寄りがあっても負担をかけたくない人が契約することが多くなっています。
■「尊厳死宣言」って何なの?
悩んでいる方が末期ガンなどの重篤な病気になっていたり、意思表示ができない状態に陥った場合など、人生の終末期において、患者本人の治療方針について、例えば「死期を伸ばすだけの過剰延命治療は控えてほしい」旨の希望を書面で作成しておき、家族あるいは医療関係者向けに伝えるものです。
要式に決まりはありませんが、真正性の確保という面から、事実実験公正証書の一種である「尊厳死宣言公正証書」として作成するのが基本です。
尊厳死宣言書に法的拘束力はありませんが、医療従事者の間では、患者本人の意思を尊重し、尊厳死を容認しようという動きが大勢を占めていると言われています。
ただし、健康な状態の時と病気で終末期が迫った時では、本人の尊厳死に対する価値観も大きく変化することも予想されますので、尊厳死宣言を強制する必要はありませんし、尊厳死宣言をしている場合でも、折をみて意向を確認する必要もあることになります。
■「財産管理等委任契約」って何なの?
「財産管理等委任契約」とは、身体の不調などで外出が困難になったときに、一定の法律行為(財産管理)を信頼できまかせられる人に委任する契約で、「任意代理契約」とも呼ばれています。
また、財産管理だけでなく、身上看護の事務を任せる契約を締結することが多いので、財産管理「等」委任契約と、「等」を入れていることが多くなっています。
この任意代理契約である「財産管理等委任契約」は、「任意後見契約」と同時に締結することができます。
判断能力が低下する前から自分の財産管理をまかせたい場合や、身体に障がいがあり、財産管理を誰かに代理して行ってもらいたい場合に締結することが多くなっています。
契約は当事者間で自由に作成することもできますが、公証人に作成してもらう公正証書とすることで、後々のトラブルを防ぐことができるようになるので安全です。
契約内容は、①契約の目的②委任事務の範囲③委任事務の報告④費用の負担⑤報酬⑥契約の解除・終了などについて定めます。
■「家族信託」って何なの?
「家族信託」とは、「財産を託す人(委託者)」が「信頼できる人(受託者)」に自分の財産を託し、「利益を受ける人(受益者)」のために、あらかじめ定めた目的に従って管理・処分してもらう「財産管理の一つの方法」です。
「所有権」は、「民法のルール」では、「権利(利益を受ける権利)」と「名義(管理・処分する権利)」が一体となっており、分離することができません。
しかし、「信託法のルール」では、「権利(利益を受ける権利)」と「名義(管理・処分する権利)」を分けることができるようになります。
「名義(管理・処分する権利)」を託された人を「受託者」といい、登記簿上の所有者(形式的な所有者)になり、契約等の法律行為ができます。しかし、「託された財産」からの利益・売却代金等は「受益権」を持っている「受益者」に渡すことになります。
だから、「委託者」が、認知症になっても、亡くなっても、「受託者」は自己の名義にされた「託された財産」を管理・処分することができ、その財産から生じた利益・売却代金等を「受益者」に渡すことができるようになります。
だから、「家族信託」の制度を使って、「認知症対策」、「相続対策」、「事業承継対策」などが可能になってくるのです。
家族信託の詳細については、コラム「知っておきたい法律の知識 24.「家族信託」って何なの?」を参照して下さい。
■「成年後見制度・任意後見」って何なの?
「任意後見制度」とは、現在正常な判断能力がある人が、将来認知症などで判断能力が低下する場
合に備えて、自分の信頼できる人を選んで、その任意後見受任者との間に「任意後見契約」を締結
するものです。「任意後見人」に任せるべき法律行為は、本人の意向にそった代理権の範囲を当事
者間で自由に決まることができます。任意後見は、本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所から
「任意後見監督人」を選任されてはじめて、任意後見契約が効力を生じます。
「任意後見契約」は、必ず公証役場で公正証書で作成します。
任意後見監督人が選任されて、任意後見契約が開始すると、「見守り・身元引受契約」は終了し、任意後見契約に引き継がれることになります。
■「成年後見制度・法定後見」って何なの?
「法定後見制度」とは、既に判断能力が低下している人を対象に、家庭裁判所で「成年後見人」を
選定し、本人の身上監護に関する法律行為や財産管理などについて本人を支援する制度です。
申立権者(配偶者、4親等以内の親族など)が、家庭裁判所に成年後見人等の申立をしますと、家
庭裁判所は、本人の判断能力の程度に応じて成年後見人等の選任の審判を行います。成年後見人等
は、あくまで家庭裁判所が選任するので、家族の希望の人がなれるわけではありません。
成年後見制度の詳細については、コラム「知っておきたい法律の知識 22.「成年後見制度」って何なの?」を参照して下さい。
■「死後事務委任契約」って何なの?
「死後事務委任契約」とは、自分の死後に生じる様々な手続きを第三者に行ってもらうことを定める契約です。原則として、内容を自由に定めることができ、委任契約の一種ですが委任者が死亡した場合に、受任者が行うべきことを定めておくことができます。
主な内容は、①委任の具体的内容②復代理人の選定③死亡の連絡先④葬儀・納骨等の内容⑤費用の負担、預入先・預入金額⑥報酬⑦預入金の清算などを定めます。
死後事務委任契約を締結する方法は2つあります。
ひとつは、単独で「死後事務委任契約」だけを締結する方法です。契約は公正証書で作成するようにします。
もうひとつは、「財産管理等委任契約」の特約事項として、「死後事務委任契約」を締結する方法です。この場合、財産管理等契約の受任者に、死後事務についても依頼することになり、信頼した人に死後事務もまかせたいときに、契約関係が複雑化しなくて済むことになります。
■主な死後事務の委任の内容とは?
・死亡の連絡
・役所への届出や加入団体等への退会届出
・葬儀の準備・手続きなど、納骨・永代供養の手続き
・医療費、介護費用などの清算
・賃貸物件、看護施設等の解約・退出手続き
・遺品の整理・処分とその費用の支払など
死後事務委任契約を締結して、本人が実感できる作用としては、次のことが挙げられます。
①人生の最後まで、自己決定、自己選択に基づく自立した生活を送ることができる。
②自分らしい尊厳ある、生き方・死に方ができる。
③終末期で感じる不安、孤独、別れの寂しさ、死の恐怖などの感情を和らげることができる。
死後事務委任契約は、単なる死後事務の手続きを定める契約というだけでなく、委任者の「生活していく質、死にゆく過程の質」の向上を目的にするものです。
当事務所でも、悩んでいる方の人生の総合支援を目指したいと思っています。
■「生前契約」って何なの?
「生前契約」とは、本人が生前のうちに、葬儀の予算や内容、所持品の処分方法など死後の事務について、引き受けてくれる葬儀社や遺品整理業者など専門の事業者と契約しておくことをいいます。
この契約を締結しておくと、より確実に自分の意思のとおりに葬儀や死後事務を行ってもらうことができます。生前契約は、履行の時期が死亡時など不確定であり、委任者が履行されたかどうか確認できない不安要素もあるので、公正証書で締結するのが一般的です。さらに、公正証書遺言を作成しておくと、遺言執行者が葬儀事業者や財産管理事業者に契約を実行するよう指示をすることができるので、より確実に契約を履行してもらえるようになります。
◆まとめ
1.自分が身体が弱ってきたらどうしようか、認知症になったらどうしようか、亡くなった後の始末はどうしようか、身寄りがいても死後に煩わせたくない、などの対応策を考える機会が増えてきます。
まずは、自分の悩みごとや不安を整理し、どんな対応策があって、誰に相談すべきかを知ることが重要です。
2.悩みごと・困りごと・不安に応じて、また、本人の健康状態の程度に応じて、「選択する対応策」もいろいろあることになります。
3.「見守り契約・身元引受契約」、「財産管理等委任契約」、「家族信託契約」、「成年後見制度・任意後見」、「死後事務委任契約」などの対応策を、個別のケースに合わせて組み合わせて実施することが常用です。
■「見守り契約」とは、任意後見契約を締結して任意後見が開始されるまでの間、支援する人と本人が定期的に連絡をとる契約をいいます。定期的に連絡を取ることで、本人の生活や健康状態を把握し、見守ることがこの契約の目的です。
■「財産管理等委任契約」とは、身体の不調などで外出が困難になったときに、一定の法律行為(財産管理)を信頼できまかせられる人に委任する契約で、「任意代理契約」とも呼ばれています。判断能力が低下する前から自分の財産管理をまかせたい場合や、身体に障がいがあり、財産管理を誰かに代理して行ってもらいたい場合に締結するものです。
■「死後事務委任契約」とは、死後事務委任契約」とは、自分の死後に生じる様々な手続きを第三者に行ってもらうことを定める契約です。委任契約の一種ですが委任者が死亡した場合に、受任者が行うべきことを定めておくことができます。
4.これらの対応策を実施することは、単なる手続き(死後事務など)の契約をするだけでなく、相談される方の抱える「不安や不便を解消する手段」であり、また「人生を豊かにするための手段」という大きな目的を持つことになります。